予断を許さない危機的原発、
長期化必至。

【記:2011.3.11〜4.30】

 「綱渡り」というより極細の針穴に太糸を通すような福島第一原発の事故対応が、スピード感がないままに、もどかしく続いている。

 2011.3.11に発生した巨大地震で東京電力福島原子力発電所では、原子炉の稼動は緊急停止したものの、炉心を冷やす緊急炉心冷却システム(ECCS)が動かなくなり、原子炉内の水位が低下、これにより燃料の溶融は勿論のこと、炉心溶融(メルトダウン)の可能性も否めない極めて危険な状態に陥った。

 放射性物質も外部に放出され続け、これまで懸念されてきた放射性物質の人体に対する健康被害=人体被曝=も現実問題として急浮上した。

 地震災害で危惧される炉心溶融(メルトダウン)と人体被曝、土壌や水源、農産物や地下水、海水や魚介類等の汚染。これまで長きにわたり指摘され続けてきたこの原発の基本的な危険性に対して、国や電力会社、関係機関は常に「あり得ない」「セーフティーネットは完備している」「被曝しても健康には影響がない」と言い切ってきた。しかし、誤魔化しようのない深刻な事実・事例として突き付けられることとなった。

 後手後手にまわる政府の事故対応は、基本的な対応能力の無さや機能不全さが明確になるばかりで、不気味な不安が重くのしかかった。
 東電側が示す福島第一原発の情報は、古くからの「事故隠し」や「データ捏造」の癖が身についているかのように、常に「あとだし」や「修正」が繰り返されるばかりで、疑いばかりが増殖し、信頼性は弾けて飛んだ。

【喪 失】
 当初、鍵を握ったのは、東北電力から電力を受けての電源回復や器機類再起動へのアプローチだった。しかし、通電を経ての機能確認や点検作業等は、高線量の放射能に拒まれ続け、本来の仕組みによる冷却機能は完全に喪失した。

 外部から放水すればするだけ原子炉建屋は浸水の度を深めた。仮設ポンプで炉心に水を送り続ければ続けるだけ、原子炉内に蓄積された放射性物質が圧力容器や配管の亀裂や穴などを通して漏洩した。所によれば、なんびとも立ち入ることが出来ない高線量汚染にまで至った。
 それに加えて、放射性ヨウ素やセシウムのみならず、プルトニウムやストロンチウムまで環境に放出されることになった。大気中には、放射性物質が少なく見積っても60万テラベクレル(1テラベクレルは1兆ベクレル)以上が放出されたと推定された。

 そんな中で東電は4月17日、福島第一原発事故の収束に向けた今後の道筋を「工程表」として示した。そこでは、当面の目標を、原子炉などの「冷却」、放射性物質の「抑制」、避難地域での「モニタリング・除染」に置き、目標の達成時期は、「ステップ1」「ステップ2」「ステップ3」の単語を用いて最大で9カ月後とした。

 しかし、これが見込みのあるものだと思う者はおらず、むしろ単なる方便にしか過ぎないと受け止める者が大半を占めた。事故後35日で、そこまで東電は信頼を喪失していた。

【居住地区封鎖、避難区域拡大】
 これまで原子力安全委は、普段時に於て、原発事故に備えて重点的に防災対策を施しておく地域については、国際原子力機関(IAEA)が示す「半径5〜30キロ圏」の目安を「必要ない」として取り入れず、「半径約8〜10キロ圏で十分だ」と言い続けてきた。

 しかし、今回の事態では、そうもいかなくなった。

 緊急時には、外部被曝予測が10〜50ミリシーベルトで屋内退避、50ミリシーベルト以上で避難。これが原子力安全委員会の指針だったが、事故が長期化するに連れて30キロ以遠でも20ミリシーベルトを超える地域が出てきた。

 そこで安全委は「指針は事故発生後の短期間の措置を想定しており、長期化によって実情に合わなくなった」として急遽、累積の被曝放射線量が20ミリシーベルトを超える可能性のある住民に対して、屋内退避や避難などの防護措置を講じるよう政府に伝えた。

 福島第一原発の周辺では当初、半径20キロ以内は避難、20〜30キロは屋内退避の指示が出されていたが、事故の長期化によりさらに退避地域の拡大を余儀なくされた。

原発から20キロ圏内にある地区(大熊町、双葉町、富岡町、楢葉町、浪江町一部、南相馬市一部)を「警戒区域」として設定、立ち入りが禁止され、事実上、封鎖された。
 さらに、20キロ圏外や30キロ圏外(広野町、川内村、田村市、葛尾村、浪江町一部、南相馬市一部、川俣町一部、飯館村)に対しても、事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれがあるため、住民等に概ね1ヶ月を目途に別の場所に計画的に避難を求める「計画的避難区域」が設定されると同時に、今後なお、広域に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない状況にあるため「緊急時避難準備区域」までが設定された。

【作業を阻む高濃度放射性物質、汚染、被曝】
 高濃度の放射性物質を含む汚染水520トンが2号機の取水口付近から海にも流出した。含まれる放射性物質は法定の濃度限度の2万倍にあたる5000テラベクレルにのぼると推計された。
 放射性ヨウ素131は、2号機のコンクリート製立て坑付内の汚染水からは、国の定めた濃度限度の1.3億倍、1立方センチ当たり520万ベクレルが検出された。隣接する1、3、4号機でも濃度限度の35万〜50万倍にのぼった。

 意図的に4月4日〜10日に海に放出した低濃度汚染水計1万393トンには放射性物質の総量が約1500億ベクレル含まれていた。 

 海に放出したあとで東電は、2号機と3号機の取水口近くの海中3カ所に、放射性物質を吸着する性質があるとされる鉱物ゼオライト100キロが入った土のう3袋を投入した。しかし、既に大量の放射性物質は海に広がっていた。

 高線量の汚染水に阻まれ続け、高線量の放射性物質に阻まれ続け、現実的にはまったく見通しが立たなくなった。

 汚染水を除去できたとしても、放射性物質の放出は続く。これを止めるには、安定的な状態に持ち込む以外にはない。しかし、原子炉を「冷温停止」と呼ばれる段階にするには水がいる。水を入れ、溜った汚染水や漏れ出た汚染水を他の場所に移し、水を入れ。このスパイラルに陥った。

 津波に侵され、超高濃度の汚染水に悩まされ、冷却水不足に混乱する。まさに、ありったけの水難を被った原発の危機がはじまった。
 勿論、燃料が溶けてメルトダウンを起し、圧力容器の底にたまって、少量の水でも辛うじて冷却されるという不幸中の幸いのような皮肉な事態も想定出来るものの、いずれにせよ、何をするにしても、高濃度の汚染水や高線量の放射性物質に阻まれ続け、手がつけられない状態に変わりはない。

 一方、現場では原発被曝労働者(東電のいう「協力企業」とは、多くは「原発被曝労働を請け負う下請け、孫請け、ひ孫請けなど」)が、放射線管理されないままで許容線量を超えた作業を強いられ、人海戦術は限界をとっくに超えた。放射線管理が成されるようになってからでも、被曝線量が100ミリシーベルトを超える作業員の数は増え続けた。
 ご都合主義の政府の対策では、被曝線量はもとより、ルールや手順を、なし崩し的に緩和することが最優先に選択され、劣悪な労働環境に目を瞑るのはもとより、非道で非常識なことが非情にも黙認され続ける事態になった。

東電は4月30日、原発事故の復旧作業に当たっていた作業員2人が200ミリシーベルトを超える被曝をしたと公表した。3月24日に3号機のタービン建屋で電源復旧作業中に被曝した3人のうちの2人が200ミリシーベルトを超え、最も被曝線量が高かった作業員は、外部被曝201.8ミリシーベルト、内部被曝39ミリシーベルトだった。
 3月末までに100ミリシーベルトを超える外部被曝をした21人の内部被曝は、合計200〜150ミリシーベルトが8人、150〜100ミリシーベルトは11人にのぼった。
 東電の被曝管理のずさんさがまた明らかになった。

遠隔操作で動くロボットでは、原子力建屋内の1号機で毎時10〜49ミリシーベルト、3号機で毎時28〜57ミリシーベルトの放射線量を計測した。
 現実的に運用されている年間許容被曝線量の100ミリシーベルトに2時間で達する数値であることから、作業環境は数値的にも時間的にも極めて厳しい状況に陥っていることが、改めて判明した。

東電が計測した建屋周辺の約150カ所での「放射線量汚染マップ(サーベイマップ)」では、毎時900ミリシーベルトの高い放射線量のガレキが撤去された後でも建屋外の各所で毎時100ミリシーベルト前後の線量が計測された。

原発被曝労働者はこれまで、病気になっても多くが、闇から闇に葬り去られてきた。しかし、今回はそうもいかない。このことから政府は、福島第一原発の事故対応で現地入りした作業員の健康状態を長期的にチェックするためのデータベースを構築することを決めた。被曝やその影響の有無などを30年以上にわたって追跡調査する、という。
 被曝量が増えれば、中・長期的なスパンで、疫学的に骨髄性白血病や肝機能障害を筆頭に、各種の癌などの発症確率が高くなる。
 定期的に白血球や赤血球の数、放射線白内障の傾向、皮膚の状態などを調べ、経年変化が分かるようにする、という。

●福島第一原発、全滅●

 第一原発1、2号機では、冷却水不足で原子炉が「空たき」状態になり、燃料棒が崩壊して溶け始めた。

 プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を実施していた第一原発3号機でも、冷却水不足でMOX燃料の上部3メートル弱が水面の上に露出し、燃料棒が崩壊して溶け始めた。

ウラン燃料集合体だけで運転する軽水炉の中でできるプルトニウムは、均質に燃えているので比較的安定するが、プルサーマルでは、MOX燃料集合体が、燃えやすい部分と燃えにくい部分のばらつきが出て不安定になりやすい性質をもっているので、平均的な情報で制御しているウラン集合体だけの原子炉にはない、安全上の問題が生じる。
 ばらつきを減らすために、燃料集合体の外側にはプルトニウムが少なく、内側に多くするような複雑な成分分布になっていることから、炉心管理が難しい。

MOX燃料で事故が起こると、公衆に対するリスクが大幅に増大するという研究報告が米国原子力規制委員会から出されている。
1)炉心の4分の1にMOX燃料を装荷した場合、ウランだけの炉心の場合と比べ、重大事故から生じる潜在的ガン死は、42〜122%、急性死は10〜98%高くなる。
2)炉心全部をMOX燃料にした場合、潜在ガン死の数は、161〜386%、急性死の数は、60〜480%高くなる。
3)炉心に占めるMOX燃料の割合と、放出されるアクチニド(核生成物)の割合により、原子力発電所の半径110キロメートル以内の地域で、何千、何万という数の潜在的ガン死が余分にもたらされることになる。この地域の外でも影響が生じることはいうまでもなく、国土はさらなる惨事・核汚染に見舞われる。

 原子炉の冷却のために海水を使ったが「海水に依存し続けると、逆に冷却を妨げることになり兼ねない」と専門家は大いに懸念した。「炉内で塩が結晶となって燃料棒を殻のように覆う」「燃料棒の周りの水の循環が悪くなり、効率良く冷やすのが難しくなる」「燃料棒を覆っている金属が熱で破れて放射性物質が漏れ出す恐れがある」「最悪の場合は熱の蓄積によってウラン燃料が完全に溶けて、より多くの放射性物質が出る危険もある」と指摘した。
 「一日も早く海水の代わりに真水を使うように」との願いが届いたのか、やっと真水に切り替える考えに至ったが、それは、事故発生から10日以上過ぎてからだった。その間に、燃料の溶融は止むことなく進み続けた。
 津波による海水で機能不全に陥った原発が、原子炉冷却のための海水注入でさらに危険になる。これは洒落にもブラックユーモアにもならず笑えない話だった。

 

 東電・福島第一原発1号機の原子炉建屋では水素による爆発が起こり天井が壊れた。その後、第一3号機、4号機でも爆発が起こった。

圧力容器を収納する原子炉格納容器の放射線量のデータから東電は、核燃料の損傷は、1号機70%、2号機30%、3号機25%と推定した。このことから、高温になった核燃料棒の被覆管(ジルコニウム)が水蒸気と反応して水素が生成され、酸素と反応して爆発を起こす危険性が再び浮上した。
 これを回避するため、水素と酸素の濃度を薄める目的で、格納容器への窒素注入が1号機に向けて4月6日から始まった。それと同時に1号機では原子炉格納容器内を水で満たすための注水も続けられた。

東電は4月27日、1〜3号機の核燃料損傷の推定割合を根拠なく訂正した。1号機は70%から55%に下げ、2号機は30%から55%、3号機は25%から30%にそれぞれ上げた。データに一部誤りがあったというのが訂正の理由だが、この核燃料損傷の推定割合そのものが、発表の段階からすでに、まったくあてのないものと化していた。

東電は、格納容器を水で満たすことを「水棺」と称し、1号機ではこれを達成した後、空冷式の補助装置器を外付けして大量の水を循環させ、冷温停止を目指す方法を模索した。格納容器にたまった大量の水を外付け装置に導いてファンで冷やし、圧力容器内に送り込むのである。
 東電や保安院は、1号機は運転停止後、約40日が経過し、燃料に含まれる核分裂生成物の崩壊熱が低下してきているため、空冷式でも対処可能だとした。

2号機や3号機でも、注水を続ければ、燃料棒が全部水没するめどが立つとした。

 しかし、そう甘くないのが原子炉の実態だ。注水を続けても水が思うように溜らないのは、燃料棒は既に溶けており、溶けた燃料が圧力容器の底に穴をあけ、水や溶けた燃料が外側の格納容器に漏れている、と考えるのが普通だ。注入した水が核燃料に触れて超高濃度の汚染水となり、穴が空いた箇所から漏れ続け、1、2、3号機共にめどが立つと言える状況にはない。循環などとは程遠いのが現実だ。

 東電には、誤魔化すことに長けている役員や管理職は吐いて捨てるほどいるものの、真摯な取り組みを敢行する技術畑の豪腕な専門家が極めて少ないことを伺い知ることとなった。
 それと同時に、原子力安全委や保安院についても「同じ穴の狢(むじな)」状態が続いていることが再認識されることとなった。いわゆる自らの保身には、人並み以上に長けている御用学者や御用役人は吐いて捨てるほどいるものの、それに頓着することなく、ごく普通に仕事が出来る「専門家」や「科学者」の不在だ。

2006年、国は「原発耐震設計審査指針」を改定して地震の想定規模を引き上げた。これを受け、2009年度から原発の安全研究に取り組む原子力安全基盤機構が、様々な地震被害を想定した研究を始めた。
 そして、同機構は、東電福島第一原発2、3号機で使われている沸騰水型原発(出力80万キロ・ワット)は、電源が全て失われて原子炉を冷却できない状態が約3時間半続くと、原子炉圧力容器が破損し、炉心の核燃料棒も損傷、約7時間弱で格納容器も破損して燃料棒から溶け出した放射性物質が外部へ漏れる、という研究報告を2010年10月にまとめていた。

 しかし、東電は報告書の内容を知りながら、電源喪失対策を検討していなかった。

2009年の審議会では、平安時代の869年に起きた貞観津波の痕跡を調査した研究者が、同原発を大津波が襲う危険性を指摘していた。しかし、東電側は、想定の引き上げに難色を示し、設計上は耐震性に余裕があると主張し、津波想定は先送りされ、地震想定も変更されなかった。

 設計段階当初でも、起こる可能性の低いものは想定からどんどん外されていった。

●放射性物質の放出、拡散、蓄積●

 測定される放射線量の監視と共に、環境に放出されて人体が取り込んでしまう「放射性物質の種類」並びに「放射性物質個々の人体に与える影響」の把握と対策(被曝医療を含む)が最重要になってきた。水道水や農産物から規制値を超えたヨウ素やセシウムが広範囲に検出されるなど、環境汚染も進み始めた。海洋では放出された放射性物質が魚の体内で蓄積される放射能汚染の食物連鎖=プランクトンを魚介類が食べ、小魚を中魚が食べ、小魚や中魚を大魚が食べ、倍々ゲームのように放射能が濃縮される懸念=や、海底の土壌汚染への懸念も濃厚になった。

280億円以上の予算で導入されていた、原発事故の分析、放射性物質の拡散予測を連携して行なう仕組みの国のシステム「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」および放射性物質がどのぐらい放出されるかを予測する「緊急時対策支援システム(ERSS)」は双方、福島第一原発事故の発生直後から、データ公表を巡って曖昧なものになった。「発生直後から官邸のために使われた」「官邸には渡っていない」等々、薮の中での突つき合いも行なわれた。しかし、何れにせよ4月下旬までに2回しかデータ公表が行なわれず、住民のために使われることはなかった。両システムは役立たずの高価な飾り物と化していた。

●事故原発が外部に放出する可能性が高い代表的な放射性
物質・半減期・体内被曝で人体に与える健康障害や影響

放射性元素

半減期(約)

体内被曝の影響

プルトニウム239

2万4000年

骨・肺

ストロンチウム90

29年

セシウム134

2年

全身

セシウム137

30年

全身

ヨウ素131

8日

甲状腺

【視点-1】
 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の放射能放出は事故から10日ほどでおさまったが、東電福島第一原発の事故は、事故発生直後の3月12日から現在に至るまで、放射性物質の放出は止まることなく続いている。
 事態そのものはチェルノブイリよりもさらに悪い。
 それに加えて、4基が同時に重大事故を起こしたのは原発史上初で、終息不能という状態も史上最悪だ。

 放射性ヨウ素131の半減期は8日と短いものの、放出が続く限り、環境に溜まり続ける。半減期が約30年のセシウム137の土壌蓄積量は、原発の北西方向の地域などでは、1平方メートルあたり300万〜1470万ベクレルに達した。
 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で、住民避難の判断基準とされた「1平方メートルあたり55万ベクレル以上」という数値をはるかに上回った。原子炉や圧力容器や燃料棒の異常、破損など、事態が長引き、さらに悪化に拍車がかかるのは必至の情勢になった。

【視点-2】
 フランス原子力安全局では「30キロ圏外に汚染が広がり、農作物などにも影響が出ていることは明らかだが、この汚染が100キロ圏に広がったとしても全く驚かない」「放射性物質の汚染状況が管理できるようになるまでには数年から数十年を要する」とみた。
 考えたくない事態だが、さらに危険性が高まり、最も深刻な事故を超えて「レベルオーバー」に至る可能性も無きにしも非ず、という状況だ。
 今後は専門家の話として「チェルノブイリほど深刻でない」と主張する意見も氾濫するに違いない。しかし、それすら否定する事態になることも現段階では否定できない。
 世界の目は「フクシマは、チェルノブイリ以上に深刻になりつつある」と見て、今後を懸念している。

【視点-3】
 福島第一原発事故を受け、フランスの放射線専門家グループCRIIRAD関係者は3月31日、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくを防ぐ効果がある安定ヨウ素剤を、直ちにできるだけ広範囲に配る必要があると表明した。
 日本の原子力安全委員会が「放射線量100ミリシーベルトを超えた場合に安定ヨウ素剤を予防的に服用」としていることに対しては「放射性物質の影響を過小評価し過ぎている」と批判。基準をさらに下げる必要性を強調し「放射性物質による汚染が続く今は、安定ヨウ素剤の配布を直ちに始めるべきだ。配布を怠った場合、甲状腺がんの患者が今後数年で急増する可能性がある」と警告する。
 フランス政府は2009年、原発事故の際の安定ヨウ素剤配布基準を100ミリシーベルトから50ミリシーベルトへ厳格化している。

【メ モ1】
 「安定ヨウ素剤」の主成分「ヨウ素(ヨード)」は、化学合成で作ることができない希少元素資源で、日本が埋蔵量では世界1位、産出量では2位(9800トン)を誇る。皮肉にも放射性ヨウ素を環境に放出している東電が実施する無計画な計画停電で、医薬用ヨウ化カリウムの国内唯一の製造会社「日本天然ガス千葉工場」の工場稼働率が低下して供給の壁となったが、安定ヨウ素剤を製造販売する富山市の日医工には万が一の事態に備えて200万人分がストックされているという。

 日本のヨード産出量はチリの1万8000トンに次ぐ。世界総生産2万9000トンの約34%を占める。千葉県外房地域には濃縮されたヨードを含む地下水層が広がり、推定埋蔵量は約400万トンで、世界の3分の2を占める。

【メ モ2】
単位 1Sv=1000mSv=100万μSv
0.05mSv=原発(軽水炉)周辺の線量目標値(年間)
1.0mSv=一般公衆の線量限度(年間)(医療は除く)
2.4mSv=(世界平均)一人あたりの自然放射線(年間)
500mSv=全身被曝、末梢血中のリンパ球の減少。
1000mSv=全身被曝、悪心、嘔吐(10%の人)
2000mSv=全身被曝、出血、脱毛。5%死亡。
3000mSv=全身被曝、出血、脱毛、50%死亡。
4000mSv=全身被曝、出血、脱毛、永久不妊、60%死亡。
5000mSv=全身被曝、出血、脱毛、永久不妊、白内障、皮膚の紅斑、70%死亡。
7000mSv〜10000mSv=全身被曝、100%死亡。

【メ モ3】
 放射線影響研究所(放影研、広島・長崎市)などでつくる「放射線影響研究機関協議会」は、福島県立医大(福島市)を新たなメンバーに加え、周辺住民の健康検査を行なうことを決めた。
 検査は原発から30キロ圏内や、計画的避難区域に指定された福島県の飯舘村、川俣町など大気中の放射線量が高い地域の全住民が対象。大規模調査で精度を高め、健康に対する住民の不安を解消するとともに疫学的調査にも利用する。
 福島県立医大と福島県が中心になって住民の健康管理を行ない、協議会に加盟する放影研と環境科学技術研究所(青森県六ケ所村)、放射線医学総合研究所(放医研・千葉市)、京都大、広島大、長崎大の6機関がサポートする模様だ。

●魔物と化した原発●

 当事者でありながら他人事のような応答とぶ然とした態度で事故対応や記者会見等にのぞむ東電の経営者幹部等の誠意の無さは顕著で、思い上がったままの傲慢で横柄な東電の経営者体質を再認識することとなった。
 そんな中で、政府並びに東京電力から要請されて、三井住友、みずほコーポレート、三菱東京UFJなど民間主要銀行が、約1兆9000億円の緊急融資をおこなった。原発事故で急低下する国策企業体の東電の信用力回復や事故対応のための資金調達を、国策で破綻を救済された金融機関が下支えするのである。また、財政破綻している政府も「危機対応融資」を活用して政府系金融機関を通じて東電に資金支援するのである。
 民間企業と言う名の国策企業体は、民主主義という名のニッポン
社会主義国家に在っては、不祥事をおこそうが経営不振に陥ろうが株価が底を突こうが、思い上がったままの傲慢で横柄な経営者体質が続こうが、経営破綻しようが、公的資金による出資を通じて救われ、やがて息を吹き返すのである。
 今後は想定する額の数十倍、つまり原発事故処理全般や電力安定供給、廃炉費用、損害賠償や被曝医療対策費等々で数十兆円規模の資金が必要となるのは確実で、安全神話が崩れた原発は、国家をより一層窮地に追い込んで「国家財政の破綻」にまで誘導しかねない魔物と化した。

【魔物のしわざ】
 原発事故による避難で、福島第一原発の半径30キロ圏内約5万8000人の大半が最終的に解雇や休業に追い込まれる可能性が濃厚になった。福島労働局では「原発事故が収束すれば周辺の調査が進み、爆発的に離職者が増えることは間違いない」と見込んでいる。

 半径10キロ圏内の福島県大熊町で見つかった震災被害者の遺体は、その後に蓄積された放射線量が高く、収容が断念された。遺体表面からは全身除染が必要とされる放射線量が計測され、哀しくも搬送できない状態になった。遺体は収納袋に入れられて近くの建物の中に一時的に安置された。圏内には他にも収容されていない遺体が多く残された。

【余 波】
 日本にとって最大の農水産物輸出市場の香港では、原発事故による放射能汚染問題で不安が広がり、人気が高かった日本食品が敬遠され、高級日本料理店が大量に倒産する恐れが出てきた。一部の日本料理店は食材を日本産から米国産などに切り替えて安全をアピールしているが、閉店に追い込まれる店も出始めた。

 原発事故の先行きが不透明な中で、日本を訪れる外国人が急減した。ツアーやホテルの解約も相次ぎ、外国人観光客への依存を強めていた観光業界は深刻なダメージを受けている。外国人の「日本離れ」も長期化傾向に向かいそうだ。

 インドは、日本からの食品輸入を3カ月間、全面停止することを決めた。米国や中国、韓国では、日本の一部の食品の輸入を禁止。ロシアでは、福島・茨城・栃木・群馬・千葉・東京からの食品輸入を禁止。EU諸国やブラジルなどでは、放射性物質に汚染されていないとの証明書を輸出品に添付するよう求めているため日本側が対応できておらず、輸入は事実上ストップした。アラブ首長国連邦では、日本産のすべての生鮮食品を一時的に輸入停止した。

 国内各地の魚市場でも、茨城県産や千葉県産の魚介類に値が付かなかったり極端な安値がついたりする例が相次いだ。福島県漁連は、海水のサンプリング調査などで漁場の安全性が確保されるまで操業を自粛することを決めた。魚介類への風評被害が拡大することへの懸念が広まった。

【稲作規制と放射能検査】
 政府は、原子力災害対策特別措置法に基づき、福島県に対して、原発から半径20キロ内(警戒区域)と、20キロ圏外(計画的避難区域)や、緊急時に住民がすぐに避難や屋内退避できるように備えておく「緊急時避難準備区域」を対象に米の作付け制限を発動した。制限の範囲は福島県内の12市町村におよんだ。

 併せて農林水産省は、計画的避難区域で飼育されているすべての家畜を対象に、放射性物質の検査を行なうことを決めた。安全が確認された家畜は、農家の意向を踏まえ、避難区域外に移動するなどの措置を取る。また、米の作付け制限の対象とならなくても、福島第一原発周辺の地域では収穫後の玄米を検査し、放射性セシウムの含有量が食品衛生法上の暫定規制値=1キロ当たり500ベクレル=を超えたものは出荷見合わせとする。

●原発の見直し●

 この惨事を受けて各国では、原発見直しに転換する気運が再び出てきた。ドイツ、スイス、アメリカのみならず、今後のエネルギーを原発に求めようとしている途上国に於ても、方針の転換を迫られる可能性が濃厚になってきた。

 一方この惨劇に見舞われて「クリーンなエネルギー」や「安全神話」の化けの皮が剥がれた国内では、山口県熊毛郡上関町で進めている原発建設に関して中国電力が2011年3月15日に「作業中断」を正式表明するなど、ゴリ押しですすめられてきた原発計画一本槍の動きに、やっとストップがかかりつつある模様だ。
 東京電力も青森県東通村の東通原発1号機の建設を中断した。また、電源開発は、青森県大間町に建設の大間原発の建設を「当面中止」した。電力会社などが出資する青森県むつ市のリサイクル燃料貯蔵・使用済み核燃料中間貯蔵施設の建設も当面中止する。中部電力は静岡県御前崎市の浜岡原発6号機の建設計画を延期すると共にウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使用したプルサーマル発電も「当面中止」した(その後、稼働中の原発すべてを停止)。

 また、九州電力は、東電福島第一原発の状態が安定の方向に向かっていないことや、国が原発の安全対策の見直しを検討しているため、国の方針が出てから今後の対応について決める必要があることから、定期検査中の佐賀・玄海原発2、3号機について、3月下旬と4月上旬にそれぞれ予定していた再稼動を延期することを決めた。玄海3号機は2009年末、国内で初めて使用済み核燃料を再処理したプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を用いたプルサーマル発電を開始している。

 他の電力会社もこれらの動きに追随し、再稼動は延期、建設計画は棚上げ、プルサーマル発電は見合わせ等々、しばらくは様子見が続きそうだ。

 2030年までに少なくとも14基の原発の新増設を目標に掲げたエネルギー政策が、根本から覆された。

【記:2011.3.11〜4.30】

日本にある商業用原発は54基。うち、現在発電しているのは23基。定期点検で18基が停止中、大震災で10基が緊急停止(東電・東北電)、装置不具合で1基が停止中(北陸電)、稼動の中部電浜岡原発2基が停止。


【関連記事】

原発稼動に片寄る原子力安全委員会と原子力安全・保安院の見解
◇2007年の中部電力浜岡原発運転差し止め訴訟の静岡地裁での証人尋問では、原子力安全委員会の班目春樹委員長は、非常用発電機や制御棒など重要機器が複数同時に機能喪失することの想定について「すべてを考慮すると設計ができなくなる」と述べていた。
 参院予算委員会でこれを「割り切った考えの結果が今回の事故につながった」と突かれた同委員長は「原発設計の想定が悪かった。想定について世界的に見直しがなされなければならない。原子力を推進してきた者の一人として、個人的には謝罪する気持ちはある」と述べ、陳謝した。

◇原子力安全委員会が1990年に定めた「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」の「電源喪失に対する設計上の考慮」の項目では、原発設計時に「送電線の復旧または非常用交流電源設備の復旧が期待できるので長期間にわたる全電源喪失を考慮する必要はない」と規定していた。

◇原子力安全・保安院長は2010年5月、衆院経済産業委員会で「外部電源が喪失されて冷却機能が失われると炉心溶融につながることは論理的には考え得る」と答弁していた。また「電源が喪失しても数時間後には復旧させる」としていた。


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