解 説

ゼロ危機
−東電・原発トラブル隠しの余波−

2003・2/16

 東京電力は2003年4月中旬までに17基すべての原子力発電所を停止する。一連のトラブル隠しで安全確認を求める地元の声に配慮し、定期検査を前倒するためだ。東電の原発は、すでに定期検査などで9基が停止中。3月末までに7基を停止し、4月には残る1基も停止する。停止した原発の再稼働が遅れると、東電の予備発電能力は3月にはゼロになり、綱渡りの電力供給となる。
 停電を起こさないためには電力供給量が需要量を常に10%程度上回る予備電力量が必要といわれる。東電の原発の総出力は1730・8万キロワットで総発電量の40%強を占め、いまや最大電源になっている。しかし、その最大電源の原発は2003年の年頭から、出力ゼロに向かっている。

 危機回避のため東電は、点検作業が終わりに近い原発などの早急な運転再開による電力の確保をもくろむ。しかし、東電の裏切り行為で地元では利権をむさぼってきた推進派ですら、やすやすと首を縦にふる者はいない。
 太平洋側の火力発電所の緊急稼働などで原発電力減少分を補うにしても、火力発電の再稼働には約1400億円程度の燃料費増が伴い、CO2排出量も増加する。

 緊急時には関西電力に90万キロワットの電力融通を依頼する予定だというが、運よく春まで乗り切っても、冷房需要などで年間最大の需要ピークが訪れる6月以降、事態はさらに深刻度を増す。
 東電の昨夏のピーク電力は6320万キロワットだった。すべての原発の停止が4月以降も続くと単純計算で1200万キロワットが不足する。そして、その影響は予想不能だ。しかし、この際だから電力不足を体験するのもいい。あさましい自らの人間の姿を見ることが出来るかも知れない。まさに絶好のチャンスでもある。

 危機回避には停止原発の運転再開しかないが、反対の声を押し切って、いつものように政治的に稼働させたとしても、信頼回復とはさらに縁遠いものになる。そして、これからの原発政策であるプルサーマル計画に対する国民の了承度は限りなくゼロに近くなる。

 現在、大口需要家を訪問したり、広報・広告を出すなどして節電を呼びかける。だが、そこにも、東電の反省のない姿が鮮明に表われている。「いま原子力発電所を停止しています。電力不足にならないよう節電をお願いします」。そこには、なぜ原発を停止せざるを得なくなったのかの真摯な説明がまったくない。漂うのは、これまでどおりの、こそくさだけだ。(2003・2/16)

●国や東電は、電力需要がピークとなる7月から8月にかけて電気を安定供給するには、8基前後の原発を再稼働させる必要があるとしている。このため、点検・補修作業を急ぎ、安全宣言をしたうえで、地元理解を求める方針だが、「先に再稼働ありき」の姿勢が見え隠れしているというのが偽らざる現実だ。

●東電が計算する6月下旬の電力供給力の見込みは、すでに運転再開した柏崎刈羽6号分や他電力会社からの電力分、火力発電所の運転前倒分、企業の余剰自家発電力購入分などを無理やり含め約6000万キロワットで、6月下旬頃の過去最高の需要量6010万キロワットには一歩とどかない。
 現在、再稼働容認を交渉している福島第一6号、柏崎刈羽7号や、これから容認を取りつける予定の福島第一3号の3基が運転再開して約6320万キロワット内外をやっと確保できる。
 最大需要は、7月20日以降からで最大6430万キロワットが必要。これをクリアーするには、福島第二1号、福島第一5号、柏崎刈羽4号の3基を再稼働させ、約6600万キロワット内外にもっていく必要がある。
 順調に行けばの話で、トラブル発生や見込み違いも考えると、これからの電力供給は、まさに綱渡りだ。

●経済産業省原子力安全・保安院は、停止した原子炉について、再循環系では、超音波検査での安全性の再確認作業があるが、原子炉内のシュラウド(炉心隔壁)と再循環系配管の溶接部にひび割れがあった原発のうち、ひび割れが複雑な福島第二2号機をのぞき、修理しないまま運転再開を認める決定を下している。
 シュラウドのひび割れは、東電では福島第一4号機と同第二2〜4号機(福島県)、柏崎刈羽1〜3号機(新潟県)、再循環系配管溶接部は東電では福島第二2〜4号機と柏崎刈羽1〜3号機。
 複雑なひび割れが多数みつかった福島第二2号機を除き、ひび割れが進展した5年後でも、電気事業法の技術基準を満たす強度があるとし、そのまま運転することを認めた。
 再循環系配管を全部点検する頻度は、これまでの40年から5年に短縮する。また、現在の検査精度が低いことから、新たな検査方法の信頼性が実証されるまでの間、電力会社が原発の運転を再開する場合は、配管の交換など補修が必要だとした。
 これを受けて東京電力は、交換や補修に積極姿勢を示すことが住民の信頼回復にもつながると判断、新潟県と福島県にある4基の再循環系配管溶接部のひび割れ部分をすべて交換する計画を発表。6基のシュラウド(炉心隔壁)のひび割れも一部を除いて補修するとしている。

●トラブル隠し批判の対応で17基すべての原発を止めていた東京電力は5月7日、定期検査に入って停止していた柏崎刈羽原発6号機の運転再開を新潟県知事、柏崎市長、刈羽村長が容認したのを受けて同原発を起動させた。

●福島県内の原発立地4町で組織する「原子力発電所所在町協議会」は5月15日、安全性に国が全責任を負うなどの条件を付けた上で、運転再開を事実上、容認する考えをまとめた。

●東電は5月20日、定期検査中の柏崎刈羽原発5号機の炉心隔壁(シュラウド)に2カ所でひびの兆候が見つかったと発表した。5号機のシュラウドで兆候が確認されたのは初めて。ひびの兆候2カ所はいずれもシュラウド内側の中部にある溶接線近く。1カ所は縦約33ミリ、横約16ミリの範囲に枝分かれしており、もう1カ所は縦約18ミリ、横約15ミリの範囲に2本が伸びていた。今後、超音波検査で深さを測定する。

●福島県議会は6月9日、国が安全宣言した福島第一原発6号機について「技術的な安全性が確認されたと思われる」などと判断し、再稼働を認める見解を取りまとめた。
 東電の原発再稼働については「先に再稼働のスケジュールありきではないのか」「安全宣言イコール再稼働ではなく、信頼関係が構築できたかが最大の問題」などといった批判や指摘もなされたが、多数意見として「東電や国が安全確保に努めることを条件に運転再開を認める」旨の見解を県議会としてまとめた。

●福島県議会の意見集約について「地元や県議会の結論は大きな判断材料だが、県民の全体的な雰囲気を見極める必要がある」と、県民の幅広い意見を聞く方針を表明し、運転再開には慎重な姿勢を示している福島県知事は、再稼働については、国のエネルギー政策に対する姿勢を総合的に見極めた上で判断する考えを示している。
 原発に反対する県内の市民団体などは、原子炉の安全確保や県民合意などが得られるまで、県内原発の再稼働について判断を留保することなどを盛り込んだ要望書を知事と県議会議長あてに提出。福島第一原発6号機については、運転再開前に今秋に予定される定期検査を前倒しで実施するよう東電に求めるべきだとしている。

●休止中の柏崎刈羽原発7号機について、検査に問題がなかったとして東電は6月9日、正式に地元の自治体に運転再開を要請した。
 7号機は、炉心隔壁(シュラウド)にひびはなく、格納容器の気密性試験も国の基準値を下回った。6月後半にも運転が再開される見込みだ。

●東京電力は6月15日、定期検査中の福島第二原発3号機で、制御棒1本を挿入しないまま核燃料を装荷するミスがあったと発表した。
 東電によると、燃料装荷から約10分後の14日午後4時ごろ、作業員が中央操作室のモニター表示で制御棒が挿入されていないのに気付き、制御棒を挿入したという。
 他の原発でも、福島第一原発3号機で2月、安全装置を作動させずに制御棒を操作し、2本を同時に引き抜く保安規定違反があり、保安院が5月に東電を厳重注意したばかり。 また、福島第一原発4号機の使用済み燃料貯蔵プール内に、シュラウドの修理工事で使用したポンプの部品が落下、工事を担当した日立製作所が4月末にトラブルに気付きながら東電に報告せず、東電も1カ月以上もトラブルの事実を把握できなかったことも判明。「一連の不正問題の反省として、トラブル発生時に協力企業との迅速な情報共有を図るとしながら、その方針が生かされなかった」と、批判を受けたばかり。
 東電は、トラブルやミスが発生すると常に「安全上の問題はない」として決着させようとするが、「確認する」という基本的な姿勢が欠落している限り、運転再開に向けた合意環境が整うことはなさそうで、原発再稼働については今のところ疑問符のほうが大きそうだ。

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