原発、さらに高リスクな発電、プルサーマルに手を染めた。

 九州電力、四国電力、中部電力の3社が原発に導入するプルサーマル発電用のMOX燃料(プルトニウムとウランの混合酸化物)が5月18日、静岡県御前崎市の中部電力浜岡原発近くの御前崎港に到着した。フランスを出航したのは3月6日(日本時間)、アフリカ南端の喜望峰を経由して南西太平洋を航行、約2カ月半かけて運んだ。中部電力浜岡原発用のMOX燃料をおろして後、輸送船は九州電力玄海原発と四国電力伊方原発へとMOX燃料を運んだ。

 プルサーマル発電に向けての欧州からのMOX燃料輸送は、1999年、2001年に続き3回目になるが、過去に輸送した燃料は、検査データのねつ造など不祥事が発覚し、プルサーマル計画(使用済み核燃料を既存の原発で再利用して発電する計画)が頓挫した経緯がある。今回輸送のMOX燃料に不備がなければ、プルサーマルによる原発の稼動が始まる可能性が高まった。

 順調にいけば、玄海3号機(九州)が今夏、伊方3号機(四国)が来冬、浜岡4号機(中部)が来夏、プルサーマルに向けて燃料を交換し、玄海原発3号機(加圧水型軽水炉、定格出力118万キロワット、佐賀県玄海町)は、10月下旬にMOX燃料を使った試運転を始め、11月中旬に国内初の稼動をはじめる予定だ。

 しかし、もともと熱中性子を目的として作られた軽水炉原発でプルトニウムを燃焼させるのはウラン燃料の場合よりもアクチニド崩壊熱が一桁以上増大して危険なのはもとより、MOXとして使用された燃焼度の高い「使用済み燃料」は、冷却に通常の核燃料の10倍もの年数を必要とする。そして、さらに厄介な核生成物や核廃棄物を作り出すので、「無限の核廃棄物製造機」とも揶揄されている。


5月18日、御前崎港に接岸の
MOX燃料輸送船

安全上の問題点

 ウラン燃料集合体だけで運転する軽水炉の中でできるプルトニウムは、均質に燃えているので比較的安定するが、プルサーマルでは、MOX燃料集合体が、燃えやすい部分と燃えにくい部分のばらつきが出て不安定になりやすい性質をもっているので、平均的な情報で制御しているウラン集合体だけの原子炉にはない、安全上の問題が生じる。
 ばらつきを減らすために、燃料集合体の外側にはプルトニウムが少なく、内側に多くするような複雑な成分分布になっていることから、炉心管理が難しい。

健康上のリスク

 MOX燃料を使用すると、公衆に対するリスクが大幅に増大するという研究報告が米国原子力規制委員会から出されている。
 炉心の4分の1にMOX燃料を装荷した場合、ウランだけの炉心の場合と比べ、重大事故から生じる潜在的ガン死は、42〜122%、急性死は10〜98%高くなる。
 炉心全部をMOX燃料にした場合、潜在ガン死の数は、161〜386%、急性死の数は、60〜480%高くなる。
 炉心に占めるMOX燃料の割合と、放出されるアクチニド(核生成物)の割合により、原子力発電所の半径110キロメートル以内の地域で、何千、何万という数の潜在的ガン死が余分にもたらされることになる(この地域の外でも影響が生じることはいうまでもない)。

プルサーマル計画の現実

 使用済み核燃料から抽出したプルトニウムに、ウランを混ぜ、混合燃料(MOX燃料)を作って通常の原発(軽水炉)で使うというもので、「もんじゅ」の事故で高速増殖炉による核燃料サイクル構想が事実上崩壊したことからこの計画がにわかに浮上した。
 国や電気事業者は、2010年までに16〜18基の原発での実施を描いていたが、MOX燃料の製造データねつ造問題が発覚するなど、トラブルによって暗礁に乗り上げた。新潟県刈羽村で全国で初めて原発でのプルサーマル計画実施の是非を問う住民投票が行なわれた際には、反対票が過半数を超え53・40%にまで達したほどだ。これまでに事前了解を得られているのは、全国で7基にとどまっている。
 これらのことから、国ならびに電気事業連合会は、新たな目標設定が立てられない状況に陥っている。このため電気事業連合会は2009年6月12日、目標を5年先送りすることを正式に決めた。

国産プルトニウムの利用計画

 電気事業連合会が発表した日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(六ヶ所村)で取り出す09年度のプルトニウムの利用計画によると、09年8月に完工予定の再処理工場では09年度に160トンの使用済み核燃料を再処理し、0・9トンのプルトニウムを取り出す予定。これにより、プルトニウムの保有量は09年度末に3・2トンになる見通し。これをプルトニウム・ウラン混合酸化物燃料(MOX燃料)に加工する。しかし、使用済み核燃料再処理工場では、高レベルの放射性廃液の漏えいなど保安規定違反が多発し、信頼度が限りなくゼロに近い状態が続いている。

MOX燃料

 プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料のことだが、六ケ所村で再処理して取り出すプルトニウムが将来余ると見込まれたために、途中で派生した「副産物」に過ぎない。

MOX燃料加工工場

 1984年に電気事業連合会が青森県と六ケ所村へ核燃サイクル事業への要請をした段階では、計画に含まれていなかった施設。2000年11月に日本原燃が商業用MOX燃料加工工場の事業者となることを表明、青森県と六ケ所村に対しMOX工場立地への協力を要請した。
 再処理工場の不正溶接などの影響で、木村守男知事当時は青森県のMOX工場に関する検討が中断していたが、三村申吾知事が誕生して以降は、再処理工場のウラン試験開始を機に一気に計画が加速、05年4月、六ケ所村の古川健治村長がMOX工場受け入れ表明した翌日、三村知事がMOX工場立地に同意するなど、MOX燃料加工工場の立地は「スピード決裁」となった経緯がある。

大間原発

 国は当初、新型転換炉として計画していたが、95年8月に断念し、全炉心にMOX燃料を使う商業用軽水炉(改良型沸騰水型軽水炉、138万3000キロワット)に計画変更した。2012年の運転開始を目指していたが、2014年12月に大幅にずれ込んだ。稼動すれば世界で初の未成熟なフルMOX燃料の原発になる。
 下北半島で大間原発の建設計画が持ち上がったのは30年以上前のことで、当初は多くの住民が建設に反対した。しかし、札束を積み上げられ年を追うごとに買収が進み、未買収用地を抱えたまま強引に着工された。
 これを運営する電源開発(Jパワー)は株式の3分の2を政府が、残る3分の1を電力九社が保有する特殊会社だったが、小泉政権下の2004年10月に完全民営化した。その結果、株式上場で英投資ファンドTCIなど外国投資会社に40%買い込まれた。このことから、関税・外国為替等審議会(外為審)を受け、Jパワー株の買い増しの中止・変更を勧告した経緯もある。

【記:2009.3.8/6.12改 荒木香織Kaori Araki】


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