コラム

エネルギー政策の転換で、
向かい風の原発、追い風の風力発電
(2000・3/10)

 通産省は原子力発電所の新規立地件数などを含め、現行のエネルギー政策を見直す方針を明らかにし、2010年度までに16〜20基の原発を新たに建設するとした国の原発立地計画を断念、建設の目標を引き下げる方針を固めた。

 1998年末時点で世界で運転中の原発は1997年末に比べ5基減り、合計出力も約100万キロワット少なくなり、世界で運転中の原発が「基数・総出力」ともに減少傾向に向かうなか、これまでの日本は「さらなる増設」に向けて動き続けてきた。
 1998年末時点で運転中の原発は429基(合計出力は3億6469万7000キロワット)。日本は53基(合計出力は4524万8000キロワット)で、アメリカ(107基)、フランス(56基)に次ぐ世界第3位の「原発依存大国」。日本の原発は1966年、茨城県東海村に最初の原発が出来て以来、その依存度を増し、発電量比率は火力が約50%、原発が約40%、水力が約10%という状況で、2010年度までの発電量比率目標を、原発45%、火力42%に置いている。
 「原発はコストの面で高くつくし、今後のコスト競争力もない」という判断で、98年アメリカやオランダが、それぞれ2基と1基閉鎖、カナダでも5基が運転を休止。国民投票で原発の全廃を決めているスウェーデンでは99年から稼働中の原発を運転停止、閉鎖する作業が開始されるなど、今後の原発計画を見直しに入っている時代に、これまでの日本では、「見直し」という基本姿勢は殆どなく、近年は東京電力柏崎刈羽原発7号機(新潟県)と九州電力玄海原発4号機(佐賀県)の2基を増設して稼働させた他、原発の新規着工も、青森県東通村や大間町で次々に行なわれはじめた。そして、さらにこれまで以上に高リスクなプルサーマル計画(プルトニウム混合燃料の利用)や、失敗続きの「高速増殖炉計画」などを推し進めようとしてきた。

 特に政府は、温暖化防止京都会議で決まった温室効果ガス6%削減の達成に向けて「温暖化の原因となる二酸化炭素の排出が少ない原発の増設」を対策の柱に挙げながら、「原発は、二酸化炭素の排出が少ないものの、最も危険な放射性物質と放射能を排出している」ことの認識がないままに、2010年までに原発発電量を1997年比で1・5倍以上にすることを決めるという認識錯誤、判断不良の中に存在し続けてきた。

 特に滑稽なのは、耐用年数は長くて30年とされていた原発を通産省・資源エネルギー庁が、1基60年の長期運転を容認することを決めたという点。
 これは、通産省・資源エネルギー庁が電力各社から出された原発の60年運転を仮定した機器全体の技術評価を審査した結果、安全が確保されていると判断した、というものだが、これは単なる表向きの方針で、真の目的は、運転開始から30年近くがたつ福島第一原発1号機(東京電力)、美浜原発1号機(関西電力)、敦賀原発1号機(日本原子力発電)への「廃炉回避対策」で、寿命のきた原発をさらに「とりあえず10年間、稼働させようよ」というものだった。

 それは、新規立地や増設が反対運動などで困難、廃炉にする場合の費用や安全対策は極めてコスト高という側面も踏まえた上での判断だが、既存の原発が今後どんどん老朽化して寿命を迎えるという状況への対応策として、「とりあえず」の泥縄策で老朽化原発の延命を決め、危険な60年稼働への道を選択した。

 現在の施設の中で、将来にわたって最も危険性の高い原発および核燃料サイクル施設は、閉鎖後も放射性廃棄物の半永久的な保管管理が、高度な技術と膨大な経費と共に必要で、原発の数が増えれば増えるだけ放射能汚染という厄介な問題を抱えて、核のゴミと一緒にわれわれは、これからさらに深刻さを抱え込んで存在し続けていくことになるのは、十分に承知の上での選択だった。

向かい風の原発
 こうした中、周知の事実として1999年9月30日午前10時半ごろ、茨城県東海村で住友金属鉱業100%出資の子会社である核燃料製造メーカー「JCO東海事業所(旧社名、日本核燃料コンバーション)」のウラン加工施設で「国内原子力史上最悪の臨界事故」が起きた。施設のすぐ近くでは、放射線量が通常の約4000〜1万5000倍に達し、半径350メートルの周辺世帯には避難勧告が出された他、半径10キロの範囲で屋内待機が要請され、混乱した。

 この混乱は、改めて原子力施設や業務をめぐる「不備」や「欠陥」および科学技術庁および原子力安全委員会などの対応能力の「欠落」などが浮き彫りになり、われわれ国民は、否応なく常に危険と隣り合せでの生活を強いられていることを再認識する格好になった。

 再認識する時期が、「時、すでに遅し」なのか「まだ間に合う」のかは議論の分かれるところだが、安全神話が完全に崩れ去った今、推進・反対・慎重という「派」を問わず、原発の推進には慎重な意見を示す動きが主流になり始めた。

 政府が示し続けてきた原発依存姿勢を、ここにきてやっと見直す意向を示したのは、「原発の推進が間違いだった」という認識の意思表示ではなく、国民の原発に対する不信感が深まり、電力各社の計画でも、2010年度までに運転開始を予定している原発は当初20基だったものが13基と、7基の減になっているのが現状で、新規立地や増設が難しくなってきたという極めて単純な発想からだが、理由はどうであるにせよ、見直すことに異論をもつ者は少ない。

 加えて最近の傾向として「風力発電」や「太陽光発電」という代替エネルギー利用への動きが活発化していることから、これらに支えられて「長期エネルギー需給見通し」もこの線に沿って再検討できるのではなかろうか、という目算も生んだと見られる。

 原発問題はこれまで、「推進」と「反対」という立場だけで人間の価値観を大きく二分するほどの「溝」を生み出してきた。特に立地予定地域には大きな混乱と傷を与え、今もギクシャクした関係を残している。

 しかし、傷を残しながらも旧態依然とした原発依存一本槍に対する批判が丹念に続けられてきた結果として今、それらが見直しというひとつの「場」を誕生させた。そして、景気低迷によるエネルギー消費減という現実や民間からの売電の自由化、「風力」や「太陽光」に象徴される「省資源での新エネルギーの活用」という追い風に乗って今、大きく方針転換するという「時」を誕生させた。

 ここにきてやっと日本も、原発依存一本槍からの脱皮という「時期」を迎えた、と言えることだけは確かなようだが、今後も政策を巡っては、利権を筆頭に産業界の利害に左右されて混迷が予測され、旧態依然とした原発推進型の「あの手、この手」のさまざまな画策は続く。

追い風の風力発電
 風力発電は、通産省が98年から建設費の半額を補助する制度をスタートさせたことや電力自由化で売電が可能となったことなどが「追い風」となり、「環境に優しいクリーンエネルギー」として建設計画がめじろ押しだ。
 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると、全国では売電や施設用電源などを目的に企業や自治体による174基の風力発電施設が稼働中(99年12月現在)だという。

 例えば東北電力は、秋田県能代市で全国的にも先進例となる風力発電の事業化に乗り出した。計画によると、能代市の県有地で約3キロにおよぶ海岸線の敷地面積約6万平方メートルに、2000年10月から総工費33億円をかけて、東北最大級となる出力計1万4400キロワットの風力発電所を建設。1基600キロワットの風車24基で2001年12月からの運転開始を目指す。事業費の3分の1程度は、NEDOの補助金を見込む。東北最大級の出力で、全国10電力会社の中でも初の試みとなる。

 また、沖縄の宮古島では、国営初となる農業用水用の風力発電施設の建設が進められている。地下ダムの水をくみ上げる取水用ポンプの動力を賄うもので、2000年秋頃の供用開始を目指す。

 さらに全国の港では、北海道の室蘭港や静岡県の御前崎港などで風力発電施設が設置されており、千葉県の千葉港や愛知県の名古屋港でも導入の予定だ。

 これまでの国の風力発電導入目標は2010年までに30万キロワットで、600キロワットの風車を毎年30基ずつ増やしていくというものだったが、さまざまな地域での風力発電への取り組みで、この数字も更新可能な時を迎えている。(2000・3/10)

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旧態依然とした原発推進型の「あの手、この手」のさまざまな画策
●原発批判が一般化するなか、通産省・資源エネルギー庁は、その対応策のひとつとして、原発関連施設がある14道県にそれぞれ1億円を一括交付する制度の創設を決めた。
「ばらまき予算」だが、その批判をかわすために、IT(情報技術)関連の研修や町おこし事業などに活用してもらう支援制度とし、具体的な交付金の使途は、定番の方法、地方自治体などが地域住民からアイデアを公募し、有識者らが参加する審査会などで決定する、といういつものやり方をとる。
 これまで原発建設やその後の増設、あるいは地元批判を抑え込むために、国は「電源開発促進対策特別会計法」などに基づき、年間に計約1700億円を原発施設がある自治体にばらまいている。
 今後は、原発などに隣接する県についても助成金の名目で制度を創設する方針だ。

●原発施設のある地域のインフラ整備などを図る「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法案」が2000年12月1日の臨時国会最終日に駆け込み成立した。電源3法による従来の交付金に加え、新たな財政的援助を可能にする法案で、原発自体の議論を棚上げしたうえでの無理やりの特別措置法成立になった。
 原発立地の地元自治体には、すでに電源開発促進税法など、いわゆる電源3法に基づいて年間約1000億円の交付金が計上されているが、支給額や期間が限られていることから、地元自治体から新たな振興策を要望する声が上がっていた。
 原発への「逆風」も強まったことから、「目の前にカネをぶらさげて、食いつかせて従わせる」という旧態依然の手法を持ちだし、原発関連施設の周辺地域で補助金の上乗せをして原発の増設や高速増殖炉の稼働、プルサーマル計画への移行の同意などを図るのがねらい。来年度の経費として33億円を見込んでいる。

地球温暖化対策で世界の風力発電20%の伸び

 2004年の1年間に世界各地で新設された風力発電施設の発電規模は、ベルギーに本部を置く世界風力エネルギー協会(GWEC)のまとめによると、前年から20%増え、大型原発7基分に匹敵する計797万6000キロワットに上った。
 原発離れや地球温暖化対策もあって、スペインとドイツでは約200万キロワットも増えた。これに対し、日本はその10分の1足らずの19万キロワット弱で、遅れが目立っている。
 2004年末での総発電規模はドイツの1663万キロワットが最大で、日本は87万4000キロワットとドイツのほぼ20分の1にとどまった。

※原発関連や風力発電や電力の小売り自由化の動向などの記事は「ニュース漂流・社会一般/揺れる原発政策」などにもあります。

※トラブル隠し「予備電力ゼロの危機−東電・原発トラブル隠しの余波−」

【2011年】
 大地震や大津波で危機的状況に陥った福島第1原発の惨事を受けて各国では、原発見直しに転換する気運が再び出てきた。ドイツ、スイス、アメリカのみならず、今後のエネルギーを原発に求めようとしている途上国に於ても、方針の転換を迫られる可能性が濃厚になってきた。

 一方この惨劇に見舞われて「クリーンなエネルギー」や「安全神話」の化けの皮が剥がれた国内では、山口県熊毛郡上関町で進めている上関原発建設に関して中国電力が2011年3月15日に「作業中断」を正式表明するなど、ゴリ押しで進めようとする動きに、やっとストップがかかりつつある模様だ。
 東京電力も青森県東通村の東通原発1号機の建設を中断した。また、電源開発は、青森県大間町に建設の大間原発の建設を「当面中止」した。電力会社などが出資する青森県むつ市のリサイクル燃料貯蔵・使用済み核燃料中間貯蔵施設の建設も当面中止する。中部電力は静岡県御前崎市の浜岡原発6号機の建設計画を延期すると共にウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使用したプルサーマル発電も「当面中止」した。


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