●連載開始:2001年1月17日最終更新:2004年2月21日

■新ラウンドの進展に悲観的な見方が広がるなか、メキシコのカンクンで2003年9月に行なわれた世界貿易機関(WTO)の閣僚会議は、閣僚宣言を採択できないまま、終わった。
 WTOの非公式閣僚会合では、これまで、最大の焦点である農業分野について、閣僚会合までに合意を目指す方針を再確認していたが、途上国側が米欧に対して輸出補助金などの一層の削減姿勢を求めるなど、激しい対立の溝は埋めることができなかった。

 設定されている新ラウンドの最終決着日は2005年元日だが、参加国の間には、期限通りに最終合意に達することは難しいという見方が広がっている。

 そんな中、世界貿易機関は2004年2月20日、暗礁に乗り上げている農業交渉を、3月22日にジュネーブのWTO本部で5日間の日程で再開することを決めた。7月末に開催予定のWTO一般理事会までに、交渉の大枠を固めたい意向だが、妥協点が見いだせるかどうかは依然として流動的だ。

●これまでの流れ

WTOのハービンソン農業交渉議長が示した2003年3月末が期限となっていた農業交渉大枠(モダリティー)合意の草案は、日本やEUなど関税大幅引き下げに反対する国や地域が一斉に反対を表明。大枠合意を目指した2003年3月末の期限内決着は不可能となった。

 この草案では、農産物関税引き下げについては、「関税率90%超」の農産物は、平均で60%、最低で45%削減。「関税率15%超、90%以下」の農産物は平均で50%、最低で35%削減。「関税率15%以下」の農産物は、平均で40%、最低で25%の削減を提示。日本の米など、輸入関税率が90%を超える農産物については、最低でも関税率の45%分の削減を求める非常に厳しい内容だった。
 日本は現在、米に関して490%の関税(従価税)をかけているが、約270%に下がり、さらに農産物全体で関税を平均60%削減する必要があるため、他の高関税農産品の関税率引き下げ幅を大きくする必要に迫られる。
 米のミニマムアクセス(最低輸入義務枠)について日本は削減を求めていたが、割当量(アクセス数量)は、原則として「拡大」の方向が示された。

新ラウンド(新多角的貿易交渉)を巡る農業の市場自由化については、国内農業の保護を重視する日本やEUなどは「一部の先進国に過重な負担を強いて、バランスを欠いている。実行は政治的にも困難だ」と主張。途上国も「農業を守るための政策を維持する柔軟性が必要だ」と主張。しかし、アメリカなどの農産品輸出国は「実質的な意味で現状を変えるには不十分」とさらなる関税引き下げを求めている。

 WTO農業交渉は、輸入国と輸出国との利害の対立が鮮明になる中、2001年3月から、関税の引き下げなどをめぐって各国との協議が本番を迎えた。

 協議の末の関税引き下げは避けられないなか、本格交渉を出来る限り遅らせて先延ばししたいというのが日本側の本音。しかし、決定的な交渉戦略も見出せないまま現在に至っっている。

 農業交渉のテーマの大枠は、およそ次ぎのようなもの。

輸出補助金なし輸出国のケアンズグループ=他産業並の自由化・関税撤廃・最低輸入義務量拡大・セーフガード廃止・助成金政策削減・助成金削減免除政策規制の強化・生産調整を要件にした助成金政策の撤廃・輸出補助金撤廃
アメリカ=農業保護策の是正と自由化・関税撤廃・最低輸入義務量拡大・セーフガード廃止・助成金政策削減・助成金削減免除政策規の存続・生産調整を要件にした助成金政策の撤廃・輸出補助金撤廃
EU連合=自由化促進と同時に農業の多面的機能への理解・関税引き下げ・最低輸入義務量改善・セーフガード存続・助成金政策削減・助成金削減免除政策の拡大・生産調整を要件にした助成金政策の存続・輸出補助金維持
日本=自由化の抑止と国内の農業保護策への理解・関税引き下げ反対・最低輸入義務量削減・セーフガード存続・助成金政策維持・助成金削減免除政策の要件緩和・生産調整を要件にした助成金政策の存続・輸出補助金削減
途上国=食糧安保の重視と先進国の市場開放

 WTOのムーア事務局長は「農業交渉は何があっても続いていくし、自由化のための改革は行なわれていく。そうでなければ世界の貿易体制は弱体化していく」「農業分野単独での交渉では、さしたる進展は期待できない。あくまでも新ラウンドの立ち上げが農業交渉の進展に必要」との認識を示し、農業交渉に関する日本提案については「保護主義的で受け入れられないと言っている国が多い」との判断だ。

各国提案内容説明で日本批判続出

 農業交渉の特別会合では、農業の多面的機能を持ち出す日本に対し、「現行のウルグアイラウンド合意よりも後退した姿勢で、交渉にむけた日本側の姿勢を疑わざるを得ない」などとする意見が相次ぎ、自由化促進を図るケアンズグループやアメリカなどは「建設的な対応のEUと比較しても日本は、農業分野での交渉をただただ遅らせようというこんたんが見えみえで、理解に苦しむ」と、厳しい批判が集中している。

アメリカのブッシュ政権、
日本に米市場の一層の開放を求めていく方針を示す

 アメリカのブッシュ大統領が議会提出した2001年の通商年次報告では、WTO農業交渉に関して、日本に米市場の一層の開放を求めていく方針が明記されている。
 日本に対して、米のミニマムアクセス(最低輸入義務量)の縮小を提唱していることを「後ろ向きの対応」と厳しく批判。今後、米のミニマムアクセスの拡大や関税の大幅引き下げを強く迫る姿勢で、日本の市場開放を最優先課題と位置付けて「米を含め日本市場への参入でアメリカはさらなる自由化を目指していく」との通商政策の基本方針を示している。

●バックナンバー関連記事「日本の米輸入、関税化に移行」「コラム:コケた? 先進国主導のWTO体制」「WTO農業交渉の会合で、オーストラリアなどのケアンズグループが関税水準に上限を設けることを提案

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