解 説

●コケた? 先進国主導のWTO体制●

 NGOの抗議行動で大混乱して始まった先進国主導のWTO(世界貿易機関)閣僚会議は、参加途上国のブーイングで新ラウンドに向けての宣言案がまとまらずに、前代未聞の「次回に繰越」という失態を演じて幕となった。

 1995年に発足したWTOは、前身のガット(関税貿易一般協定)の時代を経て、自由貿易体制づくりに向けてただひたすらに「推進」の旗を掲げて進んでいた。
 保護主義的な経済ブロック化が第二次世界大戦を招いたとの苦い経験から、過剰な保護主義に陥らないようにとの趣旨で、ガットは、8回のラウンドを通じて、関税の引き下げや貿易障壁の削減を実現し、世界に向けて自由貿易拡大を促進した。しかし、「戦後の自由貿易体制の守護神」とも冠されてバトンを引き継いだWTOは、いとも簡単にラウンドの立ち上げにつまずいた。

 そこにあったのは、WTOが突き進む自由貿易一辺倒に対する不信感の広がりと、議長国・アメリカの都合で進めようとした姿勢そのものへの疑問、特に来年の大統領選挙を意識し過ぎるクリントン大統領の動きに対する嫌悪感だった。

 WTO体制は、先進国20数カ国で産声をあげてから、加盟国数は今や135の国や地域に増え、3分の2が途上国で占められている。そうした状況の中では、先進国20数カ国だけで物事を決めることは無理だという現実を、今回の失態は象徴した。それと同時に、世界では既に一定の自由化が進んでしまい、新ラウンドを立ち上げる推進力が加盟国に働いていないことを、一面で裏付ける結果にもなった。
 また、特に鮮明になったのは、UR(ウルグアイ・ラウンド)合意の恩恵を享受できていないとする途上国の「不満」だった。
 前身のガット発足以来、途上国が100カ国を超えて多数を握りながら、半世紀以上にわたり先進国に主導権を握られ、疎外感を味わい続けてきた加盟国の面々。彼等は、日米欧の三極だけで物事を「玉虫色」に塗って片付けようとした今回のコシャクさに対して、率直に反旗を翻し、先進国中心の議会運営に、釘を刺した。

 皮肉なことに軟弱な日本は、従来なら、農業問題を巡っては、「保護主義者」というレッテルを貼られて右往左往する場面だったが、反骨を示した途上国に救われた格好となった。

 閣僚会議では、日本が求める「農業の多面的機能への配慮」は、「貿易上、不適切でかつ無関係」との認識が主流であることから日本は「宣言」への盛り込みを断念。その代わり、アメリカなども「農産物の工業品並み取り扱い」という表現を撤回した。
 双方、痛み分けの形とし、「農業の多面的機能への配慮」に代わる表現としては、「非貿易的関心事項」との表現が盛り込まれ、「農産物の工業品並み取り扱い」に代わる表現としては、「自由貿易をゆがめないことを条件に」とした。また、双方が丸くおさまる表現として「環境保全や食料安全保障を重視する」とした。

 農業分科会の議長が提示した農業分野の宣言案は、WTO農業協定に規定された実質的、漸進的な保護削減を「合意された一定期間内にわたり進める」との表現を付け加えた。具体的な交渉課題としては「市場開放」「輸出補助金の削減」「国内補助金の削減」「ルールと規律」の4項目を挙げた。
 しかし、最終調整が行なわれる段になって、農業の輸出補助金問題でEUが「撤廃」の表現は入れないよう強く求めるなど、紛糾。また、最終調整作業には、会議に出席した135の国や地域のうち、主要な特定国だけが参加して調整が図られたために、調整に加わっていないアフリカや中南米などの55カ国が連名で「不透明なプロセスで決まった閣僚宣言には同意できない」「閣僚宣言ができても署名しない」との声明を発表するなど、詰めの段階で一気に不満が噴出。結局、玉虫色での決着を試みた閣僚会議は、調整そのものが不調に終わり、事態を収拾できないままに幕引きとなった。

 自己都合優先の先進国と翻弄される途上国。途上国の掲げた反旗は、WTO体制が限りなく先進国主導の「国連化」に向かっている中で、おごる先進国に対する大きな警告なのかも知れない。

 2000年2月、バンコクで開かれた国連貿易開発会議(UNCTAD)第10回総会でも、焦点のWTOの新ラウンド再開に向けた論議では、開発途上国と先進国の貿易を巡る対立の構図は変わらず、交渉の正常化機運は盛り上がらなかった。
 総会の最大のテーマだったグローバル化の功罪について「適切に運用されれば利益をもたらす」と総括したものの、「現状は、一部の国はグローバル化から取り残され経済格差が一層拡大している」として、今後の自由化は、先進国主導で進めるのではなく途上国が利益を得られるようなシステムに是正していく必要があるとの認識が示された。
 WTOの新ラウンド再開については早期の立ち上げに最大限の協力をするよう求める一方で、先進国主導で進めるのではなく途上国の立場も尊重するようにクギを刺した。

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