特 報
蘇るか、清流四万十の流れ
四万十川の清流を取り戻そうと、
ダムの撤去運動がはじまる

 清流四万十川。その流域住民が、本来の流れを取り戻そうと、ダムの撤去運動を始めた。

 四万十川は別名「渡川」ともいわれ、不入(いらず)山の源流から中村市の下流(太平洋)まで196キロをゆるやかに蛇行し、1市3町4村の台地を流れる。その川は、最後の清流とも称され流域住民のみならず全国各地の人たちにも親しまれ、愛されてきた。

 しかし近年の環境の変化や、流域周辺の山林伐採、植林、そして護岸工事などで、今や「最後の清流」も様変りし始めている。
 豊かな水量は徐々に減り、四万十名物の「鮎」や「あおさのり」を筆頭に川の生物資源にも影響が出始めた。

 そこで、清流の再生を願い、川の流れを本来のものに戻す目的のひとつとして、流れをせきとめるような状態になっている取水堰(せき)に関して、水利権を四国電力が更新するのを目前に控えて、「21世紀を担う子どもたちに継承するため、水が流れる川に戻し、世界に誇れる四万十川を取り戻そう」と、撤去を求める運動を開始した。水利権更新の最終期限は2001年4月7日。

▲「佐賀取水堰」通称・家地川ダムは、四国電力が佐賀町の発電所の用水確保のため1937年に建設。「ダムなき清流」とも称される四万十川にある唯一の堰(現在の規格では高さ15メートル未満はダムとは称さず堰という)で、貯水量は約88万トン。アユのそ上期を除き、10月から2月末まで水門が閉鎖され、年間約2億6000万トンの水が別水系に流されている。このため閉鎖時は、堰の直下には水が流れず、アユの減少などを筆頭に川の変質が問題視されている。

 四万十川にある高知県高岡郡窪川町の家地川ダム(佐賀取水堰=ぜき)の水利権更新問題では、流域市町村では初めてダム下流の大正町の住民が、ダム撤去運動の一環として1999年1月から署名活動を実施していた。

 四万十川漁業組合連合会は1月12日、橋本大二郎高知県知事あてにダム撤去を求める7837人分の署名を提出。また、幡多郡大正町の町民代表でつくる「家地川ダムをなくする町民会議」も家地川ダム撤去へ向け、町民の約85%にあたる3000人を目標に署名運動を始めるなど、活動を積極化させた。

 これらの動きを受けて大正町の町長も「撤去費用は町で持つ。21世紀初頭に四万十川をよみがえらせるのが使命」と表明。家地川ダム問題への対応を検討する家地川ダム下流域の大正町、十和村、西土佐村各議員で構成する「北幡地区家地川ダム対策協議会」も、大正町、十和村、西土佐村の議会がそれぞれダム撤去を求める意志表示をすることを決め、先陣を切って十和村の村長と村議会議長らが県庁を訪れ、高知県知事あてに「川本来の姿を後世に引き継ぐことは村民のためだけではなく、国民に対する責務だ」として、撤去の要望書を提出すると共に、四国電力中村支店や建設省中村工事事務所に対してもダム撤去を求める申入書を提出。

 また、十和村では集落の区長らを発起人とするダム撤去を目指す住民組織「家地川ダムをなくする十和村民会議」を発足させ、大正町の町民代表でつくる「家地川ダムをなくする町民会議」などとも交流しながら、今後、流域住民との連携強化を図り、「四万十川を自然の川に戻し、21世紀に継承していくため、村民の結集により家地川ダムを撤去させる」ことを表明した。

 この動きを受けて大正町の「家地川ダムをなくする町民会議」も高知県知事らに町内で集めていた撤去署名約2000人分とダム撤去への協力を求める要望書を提出。橋本知事に「四万十川はひん死の状態だが、今ならまだ助かる。住民の思いを受け止めてください」「ダム撤去後の代替エネルギーとして太陽光、風力を徐々に導入することも考えているので、県も協力支援してほしい」などと訴えた。
 これに対応して橋本知事は「大正町がエコエネルギーの実現に取り組んでいることは素晴らしい。県としても、研究グループをつくるなどして力を入れていきたいと考えている」と代替エネルギー開発に関しては前向きな姿勢を示したものの、ダム撤去やゲート全面開放については「皆さんの思いも四万十川が大切なことも、十分分かっている」としながらも、言及を避けている。

 その後、四万十川の上流に位置する高岡郡大野見村と東津野村も定例議会で「ダム撤去」を決議。幡多郡大正町、十和村、西土佐村の議会でつくる「北幡地区家地川ダム対策協議会」は3町村に大野見村と東津野村加えた5町村で、さらに一丸となってダム撤去に向けての行動を起こしていくことを決めた。

 一方、高知県は「存廃両論ある家地川ダムについて幅広い層から意見をくみ上げて、県の意思決定に生かす」ことを目的として「佐賀取水堰に係る検討協議会」を設置。

 「冬場は、夏場の半分の放流量になっているがそれで本当に自然と共生できるのか」「夏場に水温を下げるには毎秒3・78トンの流量が必要。アユの子が育つ冬場の水が少な過ぎる」「植生を考えると撤去しかない」などの意見や「エネルギー問題を考えると撤去は時期尚早」「ダムだけを悪者にしても問題は解決しない」などの意見が出されるなか、ダム存廃については、撤去、存続の両論併記とすると共に水利権更新期間短縮へ向けた取り組みするなどとした最終見解をまとめ、2001年2月15日、橋本知事に報告した。

 これを受けて橋本知事は「水資源や環境、エネルギーなど広い分野にわたって関心を持ってもらい、議論していったことが今回の成果だ」と述べるにとどまり、ダム存廃問題に関しては「水利権が切れる4月7日までに検討させていただく」としただけで具体的な言及は避けた。

 また、ダムの条件付き存続を認める決議案を可決しているダム所在地の高岡郡窪川町および町議会も同日、「ダムの水利権更新後に義務付けられる維持流量を最大限増やす」「発電用水利使用許可期限を10年程度に短縮する」「四電が県に出している流水の占用料は四万十川の清流保全対策費として流域に還元を」など、ダム存続の条件を示した要望書を知事に提出した。

 橋本知事は「河川環境改善は一朝一夕には無理で継続的な取り組みが必要だ」「現在の占用料の使い方については調べて回答する」としたが、「窪川町の要望は、存続が前提となっている」として要望に対する回答はせず、「趣旨には賛成だ」と答えたにとどまった。

 ダム存続を求めている四電は「今後も自然環境と施設の共存を念頭に取り組みたい」としている。

※佐賀町発電所と家地川ダムに関する水利権についての四国電力の見解

「風土記八十八選/第一選」に四万十川の風景PHOTOがあります。

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