有事法制化と憲法調査会と憲法改定

【このバックナンバーページの項目・目次】●有事法制化へ憲法改定の動き/憲法調査会が始動日米防衛協力指針(ガイドライン)関連法の成立地方自治体に協力を求める周辺事態法第九条東アジアの戦域ミサイル防衛(TMD)配備に関する報告書

有事法制化へ

 小渕首相(現在は故人)は1999年3月19日の防衛大学卒業式の訓示で、1977年以来防衛庁が有事法制について「立法化を前提としない研究」として進めてきた経緯を説明しながら「研究開始から20年以上を経て、国民の危機管理への関心は高まっている」とし、「識者の間では、平素からの有事法制の整備が極めて重要との指摘があり、国民の間にもこの考え方が浸透しつつある」との見方を示すと共に、日本が直接武力攻撃を受ける場合に備えて「自衛隊が文民統制の下で適切に対処し、国民の生命・財産を守るため、任務を有効、円滑に遂行するための施策を検討する必要があり、有事法制は避けて通れない問題だ」と有事法制化に向けて、踏み込んだ考えを表明した。
 これを受けて防衛庁長官も訓示で「防衛庁としては研究にとどまらず、法制が整備されることが望ましい」と述べた。

 政府は、関係省庁局長クラスでつくる法制化準備会議を設置し、次期通常国会提出分として「自衛隊法など防衛庁所管法令」「道路法や海岸法など防衛庁以外の省庁の所管法令」の改正案策定に着手し、法制化を促進させる方針で進んできた。

有事法制の研究
 ガイドライン関連法の成立を受けて、防衛庁長官をトップとする「重要事態対応会議」で有事法制の研究を進めていた防衛庁は、有事法制化に向けて大きく動きだしていた。

 これまでは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による日本への脅威を念頭にした議論が行なわれ、その対応を中心にする研究が成され、防衛庁は「直ちに新たな法を作るわけではない」としていたが、現行法体系では迅速に対応できないなどの問題点を洗い直し、省庁の所管法令や自治体の法令などの改定を実施する方針を打ち出していた。

 防衛庁は1977年に有事法制研究を開始。当時の首相(福田赳夫)は、国会で「有事に自衛隊の任務を完全遂行できる体制はいかにあるべきか検討するのは当然」と述べ、物議をかもした。道路法、河川法、森林法など、他省庁が大きく関係する省庁所管法令の問題は当時、棚上げされた。しかし、日米防衛協力指針(ガイドライン)関連法の成立が事実上の有事法制整備の第一段階でもあったことから、有事法制化に向けた動きは、ガイドライン関連法成立の時点で本格化した。

 有事法制となれば、当然のことながら米軍との共同作戦が大きく関わってくるため、自衛隊法を筆頭に、道路法、河川法、森林法などの改定問題が重要課題になり、国民の権利を制限したり、新たに義務を課すことになる。

 いわば今後は、「何がなんでも戦争はしない」という確固たる憲法をもつ国が、「戦争に協力する」というガイドライン関連法をつくった後は、「有事には国中が戦争に無理やりかかわることを強要する」という有事法制化を開始するのである。
 表現を変えれば「テロに対しては国中がテロで対抗し、それに無理やりかかわることを良しとする」という認識を、国が法制化してまで国民に強要するのである。

 地域紛争は今もとどまることなく地球上のどこかで展開されているが、国際世論も国と国との戦争や民族紛争を含む武装や攻撃などの一切のテロ行為に対しては、明確に拒否の姿勢を示す時代になった。そんな「和平を求める」流れの中で、「有事法制化を必要とする」ということについての国民的な合意形成は図れていない。

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憲法改定の動き/憲法調査会が始動

 国会に憲法問題を総合的に論議する場としての「憲法調査会」が設置され、本格的な協議が開始された。

 憲法調査会は、衆院50人、参院45人で構成。国会の開会、閉会にかかわらず活動できる。常任委員会と同じように、閣僚に出席を求めたり、公聴会を開いたり、参考人を呼んで意見聴取することもできる。
 調査期間は5年をめどとしており、論議が終了したときには報告書を衆参両院議長に提出するほか、中間報告書の作成もする。調査会は議案提出権を持たず、調査会の結論がただちに憲法改定に直結はしないが、これで1947年5月3日に施行された現憲法は、制定から半世紀が過ぎて「改憲」に大きく軸足を移した。

 憲法改定についての見解は、自由党が「3年目に概要を示し、5年目で制定」の立場。共産党と社民党は「憲法改定反対」の立場。公明党は「憲法9条堅持と国民主権、恒久平和、基本的人権の三原則は不変」の立場。自民党と民主党は「改定の是非よりもまずは議論を」の立場。

 憲法に関しては、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を基本原理とし、戦後の平和と復興をもたらす基礎として機能してきたことは、誰もが認識していることだが、内外情勢の激動に対して、憲法が掲げる価値体系や規範が必ずしも十分に機能しているとは言えないとの指摘の下で、改憲論が浮上してきている。

 しかし、国民にとって現行憲法の中身にどのような不都合があるのかを具体的に広く国民の前に示し、国民を主権者として国民主導で議論や検討をすることもなく、憲法論議を建て前にしながらも、実は、先に「改憲ありき」や「現在の政党政治主導の国家運営をより進めやすくするためを第一義にして、憲法にある不都合な部分を変える」あるいは「利権誘導の際に邪魔になる疎外要因を削除、修正するため」という色合いが濃い憲法調査会の常設というものに対する批判は強い。
 今後は、国家安全保障や日米関係のこれからのために「憲法を改正し集団的自衛権を認める」という線に沿った9条の改定が目玉になるとの見方もあることから、「憲法調査会」の動向には注意が必要のようだ。

 労組も連合内の旧同盟系労組が中心になって憲法改正を目指す組織「憲法論議研究会議」を発足させ、ゼンセン同盟や全郵政などに加え、民主、自由両党所属の旧民社党出身議員らも参加し、現行憲法を社会状況の変化に応じて見直すことを前提に活動を始めた。

 そして2003年春。

 自民党憲法調査会(葉梨信行会長)は憲法改正要綱案の骨子を今国会中にまとめる方針を固めた。
 衆院憲法調査会が憲法改正に向けての作業を加速させるためにも、また、自衛隊の憲法上の位置付けを明確にし、集団安全保障活動を含めた国連平和維持活動(PKO)に貢献できるよう条文見直しの必要性を打ち出すためにも、自民党憲法調査会がまず、(1)天皇(2)安全保障(3)基本的人権(4)統治機構(5)地方自治――などに関する骨子をまとめる必要があることから、今回の方針決定に至った模様だ。

 憲法改正についてこれまでは、自由党が憲法改正の基本方針を打ち出し、超党派の「憲法調査推進議員連盟」(中山太郎会長)が、憲法改正の具体的 な手続きを定める国民投票法案と国会法改正案を議員立法で国会に提出することを目指していたが、自民、民主、公明内では「冷静に検討できる環境ではない」と慎重論が多数を占めていた。
 しかし憲法解釈に絡む有事関連3法案の審議などが大詰めを迎える中で、民主党が党憲法調査会で最終報告書をまとめたほか、憲法調査推進議員連盟に加わる自民党議員も各会派で改正要綱案を出し合って論議するよう提案するなど、意見集約に向けての動きが活発になっていた。

 ちなみに、憲法調査推進議員連盟が議員立法で国会に提出することを目指していた国民投票法案は、〈1〉国民投票は国会の発議から60日以降、90日以内に行なう〈2〉投票方法は賛成は○、反対は×を記載する――などの内容。国会法改正案は憲法改正の議員提案の要件について、通常の法案よりも厳しい衆院100人以上、参院50人以上――など。

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●日米防衛協力指針(ガイドライン)関連法の成立●

 日米防衛協力指針(ガイドライン)関連法=周辺事態法案の修正案、自衛隊法改正案、日米物品・役務相互提供協定(ACSA)改正案が1999年5月24日に成立した。
 政府および自民党は、日米防衛協力指針(ガイドライン)関連法案の修正協議で、自衛隊出動などの国会承認や「周辺事態」の定義、後方地域支援活動での輸送や武器使用および自治体や民間協力など、対米支援の基本計画に盛りこまれる内容について「日米安保条約の効果的な運用に寄与」を大前提にし、大枠では、自衛隊出動は「原則として国会の事前承認とし、緊急時は事後承認とする」「実施後に実施内容の国会報告を義務付ける」、周辺事態の定義はこれまで通り「周辺の地域におけるわが国の平和および安全に重要な影響を与える事態」としつつ「そのまま放置すればわが国に対する直接武力攻撃に至る恐れのある事態等」も加え、武器使用は「正当防衛などの目的で武器使用を可能とする」、船舶検査は「条項を周辺事態法案から外して、別の法律で定める」、自治体や民間協力は「港湾や空港の使用、病院への負傷者の受け入れ、人員や物資の輸送など」の他「地方公共団体の長や民間にも必要な協力を求めることができる」として各党との調整をはかっていた。

これまでの主な動き
 政府・与党は1999年2月1日、日米防衛協力指針(ガイドライン)関連法案の修正問題で、周辺事態の定義・目的について「日米安保条約の目的の枠内」との趣旨の文言を明記する方針を固め、また多国籍軍への武器・弾薬輸送に関しては「周辺事態の後方支援では武器・弾薬輸送を積極的に行なうことは可能」との方針も併せて表明し、早期に修正案の衆院通過を目指した。
 その他、協議の中で明らかになった政府・与党の見解やこれからの姿勢は次のようなもの。

 防衛庁長官は、朝鮮半島有事の際、米軍が韓国軍と連合軍を構成する場合も「日米安保条約の目的達成のために活動する米軍への後方支援は可能」と述べ、武装兵輸送を含め米軍が連合軍の一員になった場合にも、自衛隊の米軍支援はあり得るとの見解を示すと共に、同法案で自治体が国から協力を求められた場合の対応について「日本の存立にかかわる事態では一般的な協力をするのが当然」との考えを示した。
 また外相は、1950年の朝鮮戦争時に結成された朝鮮半島国連軍の後方司令部が現在も、神奈川県座間市で活動していることを認めた。さらに、同司令部に関して54年に締結された国連軍地位協定について「現時点でも有効であり必要」と説明、朝鮮半島有事の際、米軍が同国連軍として行動した場合は支援対象になり得るとの見解を示した。

 もともと修正協議は、政府が進めるガイドライン関連法案に、周辺事態が発生した際、米軍に対する「後方地域支援」に加え、制裁を確保するための「船舶検査」や行方不明の米兵などの「捜索・救難」などの他、アメリカがこれまで具体的に、かつ詳細に日本に要求してきた殆どの共同活動も盛り込みたい意向で進められてきた。

 日米防衛協力指針関連法案成立を手土産に訪米した小渕首相も、今後は安全保障・外交問題に関する衆院予算委集中審議で、日本の有事法制に関して「安全保障上の対応について、これからの議論を通じて考え方をまとめる努力をしていかなければならない」と述べ、日米防衛協力指針(ガイドライン)関連法案成立後の有事法制整備にも意欲を示していることから、日米安保強化策の次段階は「有事法制化」に移行することになりそうだ。

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●地方自治体に協力を求める周辺事態法第九条●

 政府は1999年7月6日、日米防衛協力新指針(ガイドライン)に基づく「周辺事態法」の自治体、民間協力についての実施解説要領となる「周辺事態法第九条の解説」案を地方自治体などに提示。全国市町村長会などに理解を求めながら調整を図る事を決めた。
 解説要領案での具体的な地方自治体の協力項目としては、「自治体の管理する港湾、空港施設の使用」「燃料貯蔵所の新設など建物、設備の安全確保のための許認可」「米兵や自衛隊員らの救急輸送」「人員や物資の輸送」「患者の受け入れ」など13項目を列記。
 協力要請に関して大枠では「使用内容が施設の能力を超える場合など正当な理由があれば、地方自治体の長は協力を拒める」としながらも「各権限を定めた個別法令に違反する場合には国による停止・変更命令の措置を取ることが考えられる」と明記。また「米軍のオペレーション(作戦行動)が対外的に明らかになる場合、できる限り具体的に内容を公表する」としながらも、「その事実につき、公表を禁止するものではないが、米軍の作戦行動にかかわる協力内容については、住民に情報を提供しないまま、必要な期間、非公開で米軍に対する協力を進める場合もある」とした。

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●東アジアの戦域ミサイル防衛(TMD)配備に関する報告書●

 アメリカ国防総省は1999年4月29日、東アジアの戦域ミサイル防衛(TMD)配備に関する報告書をアメリカ議会に提出、日本を北朝鮮の弾道ミサイルから守る4種類の配備計画や韓国、台湾への配備計画を明らかにしている。

 報告書によると、日本への配備計画としては「低層で弾道ミサイルを迎撃する改良型パトリオット3だけ配備する場合には100基以上が必要になるが、これだけで日本全土を防衛するのは困難」と指摘した上で、確実に日本を防衛するためには「戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)なら614基」「海上配備型上層防衛システム(NTWD)なら4基で、高速の改良型なら1基を配備する必要がある」としている。

 国防総省が東アジアへのTMD配備計画を具体的に言及したのは初めてで、特に台湾については、中国からの弾道ミサイル攻撃を想定。ただ報告書は「弾道ミサイル防衛に関する開発、生産の必要性を論じるものでも、直ちに東アジアへ配備することを念頭に置いているわけでもない」と強調している。


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