始めての塩辛作り

塩辛を手作りしようなんて夢にも思ってなかったのにひょんなことからできてしまった。

 人間、いちがいには言えないが、何でも好んで食べる人と好き嫌いの激しい人と2〜3嫌いな物がある人がいるようだ。私は15〜16年前までは、塩辛とかネギは嫌いで食べなかった。
 ところが、手術で輸血を受けて以降、この二つが食べられるようになった。というよりおいしいと思うようになったのだ。
 輸血したら嗜好が変わるというのはどうもほんとうらしい。
 当時、主治医がなるだけ元気な男性の血液が良いというもので、弟の友達数人から、協力を得て輸血をを受けた。
 その中にはどうも酒好きがいたのか? 人間の血液は2〜3ヶ月で全部入れ換わるというが、入れ換わらない部分もあったのか? 不思議なことに、ともかく塩辛が嫌いでなくなったのだ。

 今回の事の発端は、2000年末、いわば20世紀末に宮城の松島に行ったことだ。地元が第三セクターで経営しているレストランに入った時、イカの塩辛を注文して食べた。その時、「自家製です」と言って出て来た塩辛は特別美味しくもなくまずくもなく、色の濃い少し芯の残るもので、普通に食べた。ここまでの出会いでは、自分で作ってみるまでにはおそらくいってないだろう。

 その日、たまたま泊まる事になったのは、湯治旅館で食事はなし。仲居さんが地元の方らしく「朝の食事はお米と味噌汁だけでよければ出しましょうか」と言って便宜を図って下さった。
 その朝食のごはんは、さすがの宮城米で、まして目の前の田圃で出来たと聞くと、美味しさも倍増するというものだ。
 そして「ここのおかみさんの作ったものですが、どうぞ」とイカの塩辛を出してくださった。臭みがなく、芯はなく。肉もやわらかく、こういう塩辛もできるのだと感心した。同じ手作りでもここまで違うものなのかと思ってしまった。

 そして、松島をあとにして塩釜の街に入った時、運転していた相棒が突然、塩釜の漁港市場に車を着けた。昔、ビキニの取材(ビキニ水爆「死の灰」被災、被災船874隻を追って)で、ここに通ったことが懐かしくなって、漁港に寄りたくなったというのだ。
 ちょうど年末で一般消費者用に市が出ていたので覗いてみることにした。マグロ、かつお、イカ、調査の為に捕獲したという鯨、甘エビ等々、捕らえた直後に冷凍したというものがズラリ並んでいる。安い。いくら市場だといっても漁業で生計を立ている者は大丈夫だろうかという思いもわくほどに安い。

 ここで私の心は塩辛を作ろうと決まった。新鮮な大きなイカが6杯500円。発泡スチロールの空箱を100円で買い、塩釜から浦和まで溶けずに持ち帰った。野菜でもそうだが、新鮮な素材や手作りのものは、こちら側にエネルギーを与えてくれる。素材や作った人の思いがこちら側に元気をくれ、今度は自分が素材と交流したくなる。そんな出会いが今回であった。

 途中、塩釜市の外れでコーヒーブレイクで立ち寄った店の女主人の立ち振る舞いが妙に気になり、目で追っていたら「この人なら塩辛を手作りしているかも知れない」という思いがわいてきた。
 声を掛けて尋ねてみると案の定「塩辛はいつも手作りで買ったことはありません」というのだ。「今、イカを買ったのだが作り方を教えていただけないだろうか」と話すと、喜んで教えてくれた。決心が次の縁をつけてくれるのはよくあることだが、こうして我が家のイカの塩辛はできた。


イカの塩辛の作り方 

1.イカの胴と足とを離す

2.水気をよく拭き取る
(この時、水気をよく切ることがポイント。新聞紙を使うとうまくできる)

3.薄皮をとる

4.墨袋を除き、わたを出し、その中に酒と塩を入れ、味を整え、胴を適当に切り、その中に混ぜ込む
調味料を吟味する。好みで塩だけで味付けしてもよい)

5.随時食べ始めてもよいが置けば円熟味が増す


手作りのポイント

1.素材は質がよく新しいものを選ぶ
2.調味料は本醸造、無添加を使う
3.こころを落ち着け、素材に思いを馳せる

1.2を吟味するだけでもかなりの出来が期待できる


この作り方で作った我が家の塩辛は、すこぶる評判がよい。生臭さが嫌だと今まで塩辛をあまり好まなかった人も、箸がよくすすんでいる。生臭さは無いが、湯治旅館のあのやわらかさは出ていない。これはイカを一度冷凍しているからかも知れないという仮説が私の中にある。あの味を私の舌が覚えている限り、これぞと思うイカに出会った時挑戦してやろうと次の目標もできた。

私に作り方を教えてくれた奥さんの話では、絶対に水気を残さないこと、それには新聞紙を利用するのが一番と教えてくれたけれど、まことにその通りだった。また、酒と塩の変わりに味噌に付け込んでもひと味違っておいしいということ。その時は「市販の味噌は溶けないので手作り味噌よ」ともおっしゃっていた。「うちのおばあさんの漬けたのは、すっぱくなるぐらい長く置いておく」とも。

保存食を作る時は、その素材がとれる産地まで行き、おばあさんや料理好きの人を見つけて尋ねるのが一番いいかもしれないと改めて思った。
新鮮なものが安く手に入り、素材の生かし方も分かり、土地の人を知り、知らなかった日本も発見できる。
しかし、現実は時間が無い、忙しい。ますます手作りする人は減り、味付けも既製のものとなり、味に作った人を感じることも少なく、ひどい時には添加物だらけのものを口にする日常。仕方が無いと言えば仕方のない現状であるが、日常ふとしたことで、素材や料理を作った人の思いがビリビリとこちらに伝わる瞬間がたくさん持てるようになれば、そこから自分にとって気持良い食とからだの関係を発見するかもしれない。 


私はこう作る手作り談義

私の塩辛を食べて、「美味しいけど私はこう作る」といって披露してくれた方のコツはとても参考になりそうです。

作ってまだ1ヶ月も経たないのに、自分で塩辛を作るという人に食べてもらえるとは、そして、手作り談義がこんなに早くできるとは思ってもいなかった。手作りする人が味わえるまた別の醐醍味である。2人とも何故か男性。厨房は男性に乗っ取られつつあるのか?

30歳代のAさん(男性)イカの皮は表も裏も丁寧に剥ぐ。酒を入れると味が僕(埼玉の人)の好みにならないので塩だけでする。胴側にもはらわた側にも塩をふり、浸透圧を利用してイカの水分を出す。その後は一緒。

50歳代のBさん(男性)美味しいけどこの味では、僕なんか(秋田の人)お茶漬けだよ。あっさり過ぎる。僕なんか酒は入れない。はらわたに塩をして水分をだし、そのままラップをして冷蔵庫で2〜3日寝かして、それから使う。新鮮なイカがとれた時は、そのラップをしたまま冷凍庫に入れておく。必要な時に出してスライスして他の物に和えても美味しいよ。


2.2001年の幕開けに風邪

3.今日のお通じ

4.七草粥


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