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環境アセス法と原発と「スナメリの住む海」
問い直される瀬戸内・周防灘、上関原発建設計画。

 中国電力が山口県熊毛郡上関町で進める原発建設計画がアセスメント法(環境影響評価法)の観点からも、暗礁に乗り上げることが必至になるなか、経済産業省資源エネルギー庁は2001年4月6日、5月開催予定の第1回総合資源エネルギー 調査会電源開発分科会に、上関原発建設計画を上程し、国の電源開発基本計画に組み入れる方針を固めた。

 同庁は、上程理由について「2000年10月の公開ヒアリングで地元の意見を聞いた」「漁業補償契約が締結された」「用地もおおむね取得できた」などを挙げた。

 だが、上関原発計画は、根強い反対運動に加え、スナメリなど希少生物の保護の問題をはじめ、建設予定地に約10万平方メートルの未買収用地があるなど、まだまだ多くの課題が残っており、推進の勢いを失い完全に暗礁に乗り上げているのが現実だ。 
環境アセス法と原発と「スナメリの住む海」
 現在、上関原発計画は、立地予定地からの温排水が関係する海域で、水産庁版レッドデータの希少種に指定されている「スナメリ」の生息が確認され、環境アセスという法の観点から見直しが求められることとなっている。

 「環境影響評価(アセスメント)」とは、事業者が開発行為を行なう際、環境にどのような影響を与えるかを調査・予測・評価し、その結果を踏まえて環境保全措置を検討するなど、大規模開発事業を環境保全の観点でより望ましくしていく仕組みで1999年6月12日に施行された。

 原発建設の際には元々、電力側が環境影響調査を行ない、その報告書を通産省に提出することが手続きのひとつとして決められているが、1999年4月末に中国電力が通産省に提出した環境影響調査書(環境リポート)の中には、スナメリの存在やそれに関する影響調査の必要性が記載されておらず、地元住民から反発の声があがっていた。
 環境影響評価法の施行により、これからは中央省庁のみならず各地方自治体自らが判断し、計画の決裁や環境保全措置を講じる事が可能となった。

▲スナメリの住む上関・祝島周辺の漁場
▼最も小さいクジラ・イルカ類に属するスナメリ

●スナメリは、シンガポール・スマトラ・ボルネオ・中国大陸・台湾・韓国・日本本州中部までの沿岸域に見られ、日本では、瀬戸内海と伊勢湾に周年生息するといわれる。水温5〜28℃の海岸からほぼ5〜6kmの浅いところを好み、エビ・カニ・シャコなど底生生物の他、小型魚類を食べるとされているが、詳しい生態はほとんどわかっていない。
 しかし、小魚を中魚が食べ、中魚を大魚が食べるという食物連鎖という生態系の観点からは、瀬戸内海にスナメリを食べる生物はおらず、環境庁は、スナメリは瀬戸内海での食物連鎖の頂点にあるとして、環境を見る格好の指標と位置づけると共に環境保全のシンボルにと呼びかけている。

 1970年代の目視調査で瀬戸内海のスナメリは約5000頭と推定されたが、その後は減り続け、環境庁からの調査依頼を受けて1998年実施した祝島漁協の目撃情報の集計では計23頭が確認されている。
 漁師にとってタコ、メバル、タイ、アジ、ハマチなどが獲れる瀬戸内屈指の好漁場は、スナメリにとっても極めて住環境の整った海域で、スナメリの住む海は、いわば豊かな海の象徴でもある。
 地元上関町ではスナメリのことを古くから「デゴンド」と呼び、祝島では「ボウズイオ(ヨ)」と呼び、愛着を深めている。

 豊かな森を象徴する事例として、鳥の希少種に指定されている「オオタカ」「イヌワシ」「クマタカ」などが確認され、森林の生態系保全の観点から公共工事の計画変更があちこちの地域で行なわれているが、それらと同様に、海の生態系保全の観点から「上関原発建設」は、ここにきて計画変更を余儀なくされている。

 また二井関成山口県知事も、建設予定地周辺の動植物の追加調査を求める知事意見を国へ提出。大気や水環境、動植物など7分野38項目について指摘し、動植物では、スナメリは5月ごろの繁殖期を含む追加調査を求めた。営巣の可能性がある絶滅危ぐ種のハヤブサやヤシマイシンなど新種の貝も調査の継続を求めた。そして追加調査結果を、中電が作成する最終的な環境影響評価書に記載することも求めた。

 追加調査を求める知事意見の提出で評価書作成作業が遅れ、希少動物の追加調査が続いたことから、中国電力が目指した2000年の電源開発調整審議会への計画上程は大幅にずれ込んだ。

上関原発立地計画

 山口県上関町に原子力発電所建設計画を進めている中国電力は、当初、2008年に稼働を予定。その後計画は遅れ、原子炉2基の上関原発建設計画は、1号機は2012年度、2号機は15年度の営業開始を目指している。

 これまで中国電力は「電調審への計画上程までには、原発予定地(上関町四代地区)の約150万平方メートルのうち約80%の取得が必要」と判断して地権者と買収交渉を進めながら、予定地の周辺海域に漁業権をもつ8漁協との補償交渉も行なっていた。
 しかし、同町の祝島漁協の強い反対姿勢と一部地権者の建設反対の意志が依然強いことから、電源開発調整審議会(電調審)への計画上程を延期、今後の計画上程の時期についても見通しが立たなくなり、1999年3月に予定していた上関原発の電源開発調整審議会への計画上程を断念。その後、2000年3月の計画上程を目指し、「原発建設によって周辺海域に及ぼす影響はない」とする上関原発建設計画に伴なう環境影響調査書(環境リポー ト)を提出するなど、原発建設に向けての動きを活発化させていたが、これも目算が狂い、計画上程が11月に先送りとなった。しかし、これも叶わず、2000年内の計画上程は見送られた。

 中国電力は2000年4月、漁業権をもつ8漁協に対して、2000年11月の電調審への計画上程を目指し、切り札として約125億円の漁業補償額を提示。同年4月27日に地元の「共同漁業権管理委員会」との間で、建設を前提にした漁業補償の受け入れ合意の契約にまでこぎつけたが、8漁協のひとつで建設に一貫して反対している祝島漁協は、合意契約を行なった「共同漁業権管理委員会」での決議の無効を求める民事訴訟や、中国電力の株主と連携し、漁業補償に巨費を投じる中国電力役員の責任をただす株主代表訴訟などで徹底抗戦を貫く構えを見せた。
 さらに、地元の 「原発に反対し上関町の安全と発展を考える会」は2000年5月28日、上関町の中央公民館で祝島の島民ら90人も加わって総会を開き、「反対を貫く祝島漁協を無視する形で進められた漁業補償締結は許すことができない暴挙。地元合意を無視した中電と徹底的に闘い、原発計画の白紙撤回に向けて力を合わせよう」と訴え、電源開発調整審議会への計画上程の絶対阻止を目指し、県内の反原発団体と連携を深めるなどの方針を全会一致で確認。阻止活動を強化していく姿勢を打ち出し、上関の原発立地計画は、混迷の度合が一層強まる状態になった。

 こうしたなか、山口県大島郡大島町議会が行なった上関原発建設計画の賛否を問う住民アンケートで「反対」が59・6%を占めるなど、住民の反対姿勢が浮き彫りになる結果が2000年11月2日にまとまり、6割近くが反対の意思表示をすることとなった。
 アンケートは全町民の6分の1にあたる1206人を無作為抽出し、9月25日から10月16日まで実施し、61・7%の744人 が回答。744人の中で「賛成」は3・9%。「やむを得ない」の16・8%を入れても、上関原発建設計画を認める住民はアンケートに答えたなかでは2割に過ぎなかった。
 また、町長や議会の対応についても「反対意見を述べるべきだ」が39 ・5%と最も多く、「難しい問題なので慎重に対応すべきだ」の34・4%を入れると、約7割以上が潜在的に見直しを求めるという結果になった。

 また、政府が3月10日、2010年度までに16〜20基の原発を新たに建設するとした国の原発立地計画を断念し、建設の目標を13基程度に引き下げる方針を固めたこともあり、反対の続く上関原発計画は、推進の勢いを失った。 

 そうした情況下で、2003年3月28日、中国電力が山口県上関町で建設を計画している上関原発の炉心用地などとして取得した地区共有地をめぐり、反対派住民4人が入会権確認などを求めた訴訟の判決が山口地裁岩国支部であり、地裁は住民の入会権を認め、中国電力による立木伐採や現状変更などを禁じる判決が言い渡された。
 土地は1号機炉心の予定地を含み、1998年12月に四代地区の役員会が中電の社有地と等価交換する契約を結んだもので、反対派住民が「処分には地区住民全員の同意が必要で契約は無効」として99年2月、提訴していた。
 裁判では、原告側の反対派住民が「土地は村落共同体構成員の総有に属し、住民全員の承諾のない土地譲渡契約は無効」と入会権と所有権移転登記の抹消を主張するのに対し、被告側は上関村議会当時に議決した区会条例などを基に「四代区の財産であり、民有地ではない」と反論していた。
 山口地裁は「土地所有権が四代区に帰属したことはない」 とした上で、「土地の共同所有関係は、いまだ入会権の性格を失っていない」と結論付け、立木伐採や現状変更などを禁じた。反対派住民側が併せて請求した所有権移転登記の抹消は退けた。
 これにより、建設の前提となる詳細調査などには入れないため、上関原発建設計画は事実中凍結状態となった。

 上関原発建設をめぐっては、推進派と反対派が、予定地内にある四代八幡宮所有の約10ヘクタールの土地をめぐって係争中で、漁業補償に関する審理も山口地裁岩国支部で続いている。

 反対派住民は「推進側が控訴しても、逆転は難しいはず」「推進派の反応を見ながら気を引き締めて反原発の勢いを強めたい」とし、推進派は「予想以上に厳しい判決」「これでは立木の伐採も造成もできず、ボーリングなどの詳細調査にかかれない」「合併しないと決めた町が生きていくには原子力しかないのに」と落胆。推進派は巻き返しを、反対派は確実な凍結を目指し、双方、上関町長選挙に今後の行方を賭けた。

 その後、2003年4月27日、原発建設の是非が問われた上関町長選挙で推進派が町長のポストを確保、建設にむけて推進の勢いが息を吹き返したかにみえた。しかし、山口県警捜査2課と平生署が、当選した町長の後援会長など3容疑者を公選法違反の疑いで逮捕。カネによる買収での原発建設推進勢力の確保という旧態依然とした図式の一端を内外に見せる結果となり、混沌とした情勢が続いている。

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