強いストレスやトラウマ、
心を傷つけるばかりではなく脳までも「壊す」

 心の病PTSD「心的外傷後ストレス障害」について科学的に研究していた金沢大大学院自然科学研究科・薬学部の米田幸雄教授(神経化学)が、マウス実験により、強いストレスを受けると、脳内の神経細胞が新しく生まれなくなることを発見した。

 実験では、マウスを水槽の中でおぼれないように固定してしばらく動けなくした。その後、 脳内の変化を調べたところ5日間が経過してから突然、脳内で神経細胞の新生が起きなくなった、というもので、心を傷つけるストレスは「脳までも壊す」可能性があることが分かった。

 強いストレスがかかった後の脳内では、脳の活動に影響する物質 GABAの放出が抑制され、脳が興奮状態になることも発見した。その際には、脳を活発にする物質「グルタミン酸」も増加し、グルタミン酸が神経細胞の新生に深くかかわっていることも見つけた。
 勿論、マウスはその後、水を見ただけでも怖がって動かなくなるなどのPTSD症状が出た。

 人間生活の過程に於いて、小さいころのトラウマ(心的外傷)や個々人の恐怖体験が、その後の人生に深く影響を及ぼすケースがあることは認知されているが、強いストレスやトラウマが、心を傷つけるばかりではなく脳までも「壊す」ことを科学的に明らかにしたのは世界でも初めてだ。

 心の病PTSD「心的外傷後ストレス障害」は、戦争や災害、事故や傷害などで、死にさらされるような極めて強烈な恐怖体験や、その人個人にとっての極度のストレスが原因となる、と言われている。恐怖体験が突然よみがえるフラッシュバックはその典型で、それが発生することにより、正常な生活に戻れなくなるケースもある。

 カウンセリングの世界では古くから、ストレスやトラウマに関する研究が進められ、様々な療法が生まれているが、確実に治せる方法は見い出されてはいない。

 医療の世界でも、抗うつ薬投与を含め、確実に治せる方法や薬は見い出されていないことから、この研究により、ストレスと脳の関係がさらに科学的に解明され、PTSDの治療法が開発されていくことが期待される。

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「エコノミークラス 症候群」

 1980年頃から問題になっている「エコノミークラス 症候群」が、日常生活でも起きる恐れのあることが慈恵医大の医師らの実験で分かった。
 「エコノミークラス症候群」とは、旅客機などに象徴されるエコノミークラスのような狭い所で長時間座り続けると、血の流れが悪くなり、血栓による突然死を招く恐れがあることから名付けられたもので、イギリスの医師らが、空港や機内での突然死の調査をした結果、その18%がエコノミークラスの座席のような狭い場所で長時間座っっていたことから肺塞栓(はいそくせん)をまねいた、と報告したことで注目されるようになった。また、2000年11月にはイギリスの上院科学技術特別委員会が、座席環境に関して対策を講じるよう航空会社などに勧告している。

 突然死について専門的に研究している慈恵医大医師らの実験では、20歳代の健康な男性9人 に2時間、同じ姿勢でイスに座り続けてもらったところ、実験前と後では、ふくらはぎの血液の粘り気が17%程度増加、血栓が生じるリスクが高まった。

 デスクワークはもとより、もともと狭くて息苦しい車の座席や新幹線の座席など、身近に嫌というほどある閉鎖空間。そこでは極力、自らが足を動かし、歩き回り、屈伸運動をし、血流を良くするなどの工夫が必要のようだ。

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国民医療費29兆8351億円

 厚生省が発表した98年度の国民医療費の概況によると、総額は29兆8351億円で、薬価が引き下げられたことなどで前年度比2・6%増にとどまったが、過去最高額を更新した。

 国民医療費のうち、患者が実際に医療機関の窓口で支払った自己負担分は、4兆4400億円で前年度比10・8%増。国民1人あたりの医療費は23万5800円で過去最高となった。医療費を年代別にみると、65歳未満が14万6300円、65歳以上が69万8000円。
 保険制度別にみると、70歳以上を対象とする老人保健制度から支払われた医療費は10兆1737億円で初めて10兆円を超えた。被用者保険は企業のリストラによって加入者が約100万人減ったことによって前年度比4・3%減の7兆8474億円。国民健康保険は加入者が約112万人増えて5兆6101円。

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いのちのリレーで国内初の脳死肺移植を実施。

 東京都千代田区の駿河台日大病院で脳死と判定された20代の女性患者から臓器提供を受け、2000年3月29日〜30日にかけ、5例目の脳死臓器移植が行なわれた。

 脳死になる過程で傷みやすい肺は、なかなか移植に結びつかず、過去4例の脳死臓器提供でも見送られてきたが、今回は、肺を摘出して移植する、国内初の脳死肺移植が実施された。

 肺移植の対象となるのは、特発性肺線維症、原発性肺高血圧症、肺気腫、肺リンパ脈管筋腫症など、いずれも難病で手術の緊急性が高い疾患。
 腎臓、肝臓、心臓に比べ歴史は浅く、1963(昭和38)年にアメリカで初めて実施された。世界的にもドナーが不足しており、実施数は少ない。日本人では1994(平成6)年に山口県の男子高校生(18歳)がアメリカで初めて脳死肺移植を受けた。
 国内では99年10月、岡山大が生体肺移植に初めて成功したが、脳死肺移植の実施例はこれまで一度もなかった。

 左右の肺は、阪大病院で特発性間質性肺炎の40代の女性に、東北大加齢医学研究所付属病院で肺リンパ脈管筋腫症の30代の女性に移植された。
 阪大病院では、拡張型心筋症の男児8歳に対する心臓移植も実施された。
 また、肝臓も2分割され、京大病院と信州大病院で、初の分割肝移植も実施された。左右の腎臓は、千葉大病院と筑波大病院で、それぞれ移植された。

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小児の脳死・臓器移植に向けて脳死判定基準が固まる

 厚生省の「小児脳死判定基準研究班」は2000年3月15日、臓器移植法で定めた脳死判定基準に盛り込まれていない6歳未満の小児について、生後3カ月未満の乳児は除外し、それ以上から6歳未満を判定対象として、2回行なう判定間隔を「24時間 以上」とすることを正式に決めた。
 研究班は、1998年から国内の1220の医療機関から集まった6歳未満の脳死症例約140例を検討し、基準策定を進めていた。

 その結果、「深い昏睡」「瞳孔(どうこう)の固定」「脳幹反射消失」「平たん脳波」「自発呼吸消失」の5項目の検査で6歳未満の脳死判定も可能とした。
 判定間隔を「24時間 以上」とするのは、脳死と判定されてから100日以上心臓が動き続けた症例が4例あったため、生命力の強さを考慮した。

 現在の脳死判定基準は、1985年に厚生省研究班が公表した「竹内基準」が基になっている。当時、症例数が足りなかったことなどから6歳未満を除外、国内で小児の臓器提供を実施できない原因の一つとなっていた。

 小児の脳死移植実現には、臓器移植法が認めていない15歳未満の臓器提供の意思確認も課題になっており、別途、厚生省研究班が法改正を検討している。

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国立循環器病センターが受診者に無断で遺伝子解析

 大阪府吹田市にある国立循環器病センターが吹田市民約5000人を対象に実施した健康診断で、採取した血液を受診者に無断で遺伝子解析していたことが2000年2月3日に、分かった。
 
 同センターは1989年から、無作為に選んだ約5000人の市民に協力を求め、2年に1回の健康診断を実施。生活習慣と高血圧の発症との関連を継続的に追跡調査している。解析した遺伝子は、健診とは別に5CCを採血。98年5月から99年8月にかけ、その血液で高血圧に関連する13種類の遺伝子を、共同研究をしている大阪大学医学部で解析した。
 中には、アルツハイマー病や動脈硬化症の発症をはじめ、様々な病気の発症を予測できる重要な個人情報も含まれおり、得られる情報の中にはプライバシーにかかわる問題があることから、同センターは「同意を得るべきだった」として1月末、受診者に手紙で謝罪した。

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アメリカ、遺伝子治療で初の急死例が

 安全性や治療後の本人と子孫への影響などを懸念する声も多い遺伝子治療で、アメリカのペンシルベニア大は1999年12月2日、同大病院で遺伝子治療の実験薬の注射を受けた18歳の男性患者が急死したと発表した。
 死因については、治療のための遺伝子などが入った実験薬の注射がきっかけで免疫不全などの症状が出たため、としている。この患者は体内からアンモニアを排出するのに必要な酵素の活動に不調のある肝臓の遺伝子異常の病気で、治療が直ちに必要ではなかったが、危険が伴なうことを承知で参加したボランティアだった、という。
 アメリカでは遺伝子治療が1990年に初めて患者に実施され、既に3000を超す治療例があるが、治療行為が直接の原因で死者が出たことが確認されたのは初めてとみられる。

 この患者は注射後1日で容体が急変、顔がはれ、黄疸症状が出るなど数々の予期せぬ器官障害が出て4日後に生命維持装置が外された。同様の注射を既に受けていた17人の患者に変調はなかったという。
 実験を行なってきたペンシルベニア大のヒト遺伝子治療研究所は患者の死後、実験を中止した。

 日本国内でも遺伝子治療が開始される傾向にあることから、今後、遺伝子治療を巡っては様々な議論を呼びそうだ。

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阪大付属病院、遺伝子治療を最終承認

 大阪大医学部付属病院の「遺伝子治療臨床研究審査委員会」は1999年11月2日、閉そく性動脈硬化症などに対する遺伝子治療の臨床応用を最終承認した。これが実施されると生活習慣病を対象にした国内初の遺伝子治療となる。

 足に潰瘍(かいよう)ができ、安静時にも痛みのある最重症の6人を最初の対象とし、少量の注射で安全性を確認した後、有効量を投与する。問題がなければ、さらに16人に実施する。

閉そく性動脈硬化症
 
糖尿病が主な原因で、手足などの血管が詰まり、悪化すると足を切断することもある。国内に約10万人の患者がいるとされるが、これまで国内では有効な治療法はなかった。
 この遺伝子治療は、アメリカでは既に実施されており、血管形成を促す肝細胞増殖因子(HGF)の遺伝子を患部周辺の筋肉に注射、新たな血管を作らせて血行を回復させる。

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エボラ出血熱などの国内侵入を防ぐため、
サルの輸入を一部禁止。

 厚生省と農水省は、サルから人に感染する可能性があるエボラ出血熱などの国内侵入を防ぐため、アフリカ諸国のほか検疫体制が不十分な国からのサルの輸入を、2000年1月から禁止することを決めた。
 エボラ出血熱は、アフリカ中央地域などで散発的に流行している。まだ国内での報告例はないが、致死率は80%近い。

 両省は、1999年4月に感染症新法が施行されたのを受けて、輸出国での病気の発生状況や安全体制などを共同調査した。その結果、当面は検疫体制が整っいると認められる中国、フィリピン、アメリカ、ガイアナ、スリナムからの輸入だけを許可し、アフリカなどからの輸入を禁止することにした。輸入時には空港で検疫を受けることも新たに法律で義務付ける。
 ちなみに厚生省によると、98年の1年間に輸入されたサルは約4300匹で、輸入先は18カ国にのぼっている模様。中国からが最も多く、アジアからの輸入が全体の80%近くを占める。これまで国内に輸入されたサルは試験研究用が大半を占めるとされ、その研究機関側が自主的に検疫を行なってきた。しかし、サルをペットとして飼う風潮が広まっているため、危険なエボラ出血熱などについては、業者側による自主検疫では危機管理が不十分との指摘が出ていた。

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厚生省、急上昇した結核感染に対応して
従来の結核対策を本格的に見直す

 各地の病院などで結核の集団感染が相次ぎ、人口10万人当たりの結核新発生患者数が欧米諸国の3倍を超えるなど急上昇した結核感染に対応して厚生省は、国立病院を拠点とした診療ネットワークを全国に整備するなど、従来の結核対策を本格的に見直す方針を決めた。
 自治体・企業の検診やBCG接種の状況などを都道府県・政令市別に詳しく調査し、合併症や再発状況など患者本人からの詳しい聞き取りも追跡調査する。

 調査では、地方自治体が中心になって定期検診、患者発生時の家族や接触者への検診、再発の早期発見目的の検診の実施率やBCG接種などの現状を地域別にチェックする。また医療現場対策としては、全国を8ブロックに分け、それぞれ国立病院を拠点に診療情報などをネットワーク化し、全国どこでも高度な結核治療ができる態勢を整える。院内感染防止のガイドラインも作るほか、既存の治療薬が効かない「多剤耐性結核」が目立っていることから、効果が期待されながら薬事法上は未承認になっている薬の弾力的な使用も検討する。

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初の脳死判定後の臓器移植
鮮明になった問題点は
やはりプライバシー保護と群がるマスコミ対策

 高知赤十字病院で患者の家族から法律に基づく脳死判定と心臓などの臓器を取りだすことについての承諾書が提出されたことから、ドナーカードを持った患者の脳死判定が行なわれ、1997年10月に臓器移植法が施行されてから初めての脳死臓器移植手術が実施された。

 混乱の中、勇気ある決断を下した家族の承諾のもと、患者の意思でもあった脳死後の臓器提供が行なわれ、心臓と肺が大阪大学、肝臓が信州大学、二つある腎臓は東北大学と国立長崎中央病院で移植された。また、あわせて角膜も摘出、これは高知医科大で移植された。

今回、最も鮮明になった問題点
 
臨床的に脳死判定の難しさを覗かせ、慎重に進められた脳死判断にも今後の課題が垣間見えたが、最も鮮明になった問題は、いわゆる「それに群がる商業マスコミ」の問題だった。
「臓器提供はプライバシーの保護の上に成り立っているのに、それが一切守られなかった。患者は現在生きている状態なのに、脳死になることを期待しているかのような報道をされたことに、非常に憤慨していた。患者の家族は『このような報道をされるのでは、今後臓器提供を望む人は、出てこなくなるのではないか』と言っている」と、率直にマスコミの報道姿勢に怒りを示した主治医の言葉が、これをすべて象徴した。
 また、脳死判定後の家族側への臓器提供の意思確認についても「こんな報道をされるのはこりごり、と家族に言われたら、それはしょうがないと思う」と言うと共に、コーディネーターや病院、厚生省の対応についても「臓器移植は、プライバシー保護の上に成り立っていると言っていたのに全く守られなかった。プライバシー保護の具体策を詰めていかなければ、今後また同じことが起きるのでは、と危惧している。移植ネットワークも病院も具体的な方策が必要だ」と、問題点を鮮明にさせた。

 また厚生省は、臓器提供者の家族から寄せられた所感を公表。臓器提供者の家族は、報道関係者に対して「非人道的な取材方法のあり方を反省し謝罪すること」を求めると共に、厚生省に対して「本来ならば公表すべきでない情報を一部自ら公表したことを深く反省すべきだ」など、所感で厳しく指摘した。

●臨床的な脳死判断●

「深い昏睡状態」「瞳孔の散大、固定」「脳幹反射の消失(音を聞かせて神経の反応を調べる聴性脳幹誘発反応など)」「平たんな脳波(30分間)」「自発呼吸の停止」が6時間以上経過した後も変化がないこととされている。

●脳死の判定基準●

 脳死判定委員会を招集し、家族の同意が得られた際に以上の事柄を再度、詳細に検査しても変化が認められない時、下される。
 現在、6歳未満の子供の脳死判定は認められていないが、厚生省の研究班は、今年中に基準をつくることを検討している。今後は、アメリカなどの基準を参考にして作成した小児の脳死判定仮基準が妥当かどうかを、過去10年間の脳死症例を分析・検証し、判定基準を作成する。

●臓器摘出●

 脳死段階で臓器提供することを「ドナー(臓器提供者)カード」で意思表示した患者が、臨床的脳死の診断をされた場合、家族の同意が得られれば、基準にそって脳死判定を実施し、家族の同意のもとに臓器移植法にそって臓器摘出が可能になる。

●臓器摘出が出来る病院や施設●

 厚生省が定めたガイドラインでは以下の3条件を提示している。
1)臓器摘出に必要な態勢を確保し、施設内で脳死患者からの臓器摘出に合意している上に、施設内の倫理委で臓器提供への承認がある病院や施設。
2)適正な脳死判定を行なう態勢がある病院や施設。
3)大学付属病院や日本救急医学会の指導医指定施設、救急救命センターなどの高度医療施設。

●臓器移植●

 臓器提供者の臓器移植は、臓器提供者の脳死が法的に確定した後、日本臓器移植ネットワークに登録されている待機患者(レシピエント)の中から候補を選び出して実施される。候補者は、血液型、容体、待機日数など、厚生省などがつくった基準をもとに優先の順番が決まり、登録患者の中で最優先の候補に選ばれた待機患者および待機患者の家族の同意を得て臓器移植が実施される。

●脳死をめぐって●

 脳死後の臓器提供を自らの選択肢として意思表示する人が存在すると共に、さらに多くの臓器提供者が求められている反面、脳死は人の死か? 生きとし生けるものの死と判断していいのか? 臓器提供が先にありきの脳死判断になっていないのか? 臓器移植以外に方法がないとする今の医学・医療そのものも問題ではないのか? その瞬間を伝えるメディアは配慮に欠ける報道をしているのではないのか? など、生命倫理や「いのち」の問題、選択肢の問題、あるいはモラルやプライバシーの問題としての議論も投げかけている。

 脳死移植が社会的関心を集めるもうひとつの現実的理由は、30年程前に実施された和田心臓移植。心臓移植の際「提供した青年は、救命治療を十分に受けていたか? 本当に死亡していたのか? 移植を受けた患者は本当に移植が必要だったのか? 功名心からの心臓移植ではなかったのか?」などさまざまな疑問が投げかけられ、結局は「検証するにも脳波計の記録がないし十分な証拠がない」と、うやむやになった。それを起因とする移植医療への不信感が現在につながっている。

●今回の脳死臓器移植が示したもの●

 脳死判定が密室で行なわれないよう「脳死」および「臓器提供による移植」は、公表・開示を原則に進められる事が肝要だが、今回のマスコミの過剰な動きは、公表・開示とプライバシーという大きな問題をクローズアップした。そして最終的に、痛みを持たないマスコミとは対照的に、深い悲しみと大きな痛みを持つ家族の、患者の意思を尊重し、勇気ある決断を下した真摯な姿勢は、私たち一人ひとりの心の中にさまざまな形で極めて印象的に「脳死」や「心臓が停止して迎える死」あるいは「生死をこえた領域での生や死」などのことを、改めて自分の問題として無言のうちにも雄弁に提示した。

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HIV診療支援ネットワークシステムの
運用もプライバシー保護で前途多難

 全国のエイズ患者・感染者に最新の医療を提供するため厚生省が試験運用を始めた「HIV診療支援ネットワークシステム」で、参加希望した66の国立病院のうち過半数の37病院が、「コンピューターを正しくネット接続できない」「パスワードの更新、電子メールの送付、模擬データの入力などの基本動作ができない」などや「患者情報のプライバシー保護ができていない」などの理由で、ネット参加から脱落していたことが分かった。
 このシステムは患者の診療記録を一元管理する全国初の試みで、最先端の治療や投薬が行なわれているとされるエイズ治療・研究開発センター(ACC)と、大阪、名古屋、仙台と九州医療センターの国立4病院をまずコンピューターネットで接続。2月に66の国立の拠点病院にネットを拡大するための関連機器を設置した。診療情報には患者の住所や氏名など個人情報が含まれるため、同省は7段階のハードルを設けてネット利用を希望した病院の情報管理能力を厳しくチェックしたが、不合格の施設が多発した。同省は医師らを対象に講習会を開き4月初めに再スタートさせるが、少しでも情報管理に問題がある施設の参加は、今後も認めない方針。

 ネットの利点として厚生省は「ACCと地方病院との水準差を同ネットで補うことで日本のエイズ患者がどこにいても最先端の治療を受けられるようになる」「データの共有で臨床研究や試験にも役立つ」などをあげている。
 将来は民間や自治体病院も含めた364の拠点病院に拡大する計画で、現在約230人程度の患者・感染者が登録しているという。しかし、プライバシーが医療現場で守られていないとの指摘がエイズ患者・感染者から出されているため、端末にデータが残らず印刷も自由にできないシステムとするなど、同ネットはプライバシー保護が最優先されているという。現在は専用回線だけだが、将来はインターネットを使う計画もあることから、より厳しい管理が必要となりそうだ。

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