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動き始めたダイオキシン対策。

 「ダイオキシン類対策特別措置法」が可決、成立し、初のダイオキシン対策法ができた。
 ダイオキシン排出量の大幅な削減を目指すもので、大気汚染源となっているゴミ焼却施設密集地に他より厳しい規制をかける総量規制制度や、排出基準違反の事業者には懲役を含む罰則規定(違反すると6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)などを盛り込んでいる。

 ダイオキシン類対策特別措置法は「ダイオキシンの耐容1日摂取量(TDI=生涯摂取し続けても健康に問題がないとする1日当たりの量)を、体重1キロ当たり4ピコ(ピコは1兆分の1)以下」と規定。摂取量をこの水準に抑えるため、「大気、土壌、水質の環境基準を決め、それに基づいてダイオキシンを排出する焼却炉などの施設を特定施設に指定、排ガス、排水の排出基準を定める」「知事は住民の意見を聞いて汚染地域を指定し、各事業所の総量削減計画や総量規制基準を定める」「事業者が排出基準や総量規制基準を守らない場合、環境庁と都道府県は改善命令を出す」「知事は基準を満たさない汚染土壌を地域指定し、住民の意見を聞きながら除去など対策計画を作る」などとしている。

 また、環境庁は、土壌、大気、水質に含まれるダイオキシンの環境基準を決めた。
 焦点だった土壌では、環境基準を1グラム当たり1000ピコグラム(ピコは1兆分の1)とした。この値を超えた場合は、直ちに除去、覆土するなどの対策を定めている。しかし、1000ピコグラムを超える汚染のケースは全国的にほとんどないことなどから、この基準値に対する批判が出ている。
 今後は、全国の焼却施設の周辺や住宅地など約1万7000カ所で土壌のダイオキシン調査を行なう。

 調査指標は250ピコグラムとし、これを上回る場合は監視を続け、数値が上がった時には焼却施設などの発生源を探すとしている。
 水質の環境基準は1リットル中1ピコグラムとした。ごみ焼却施設、下水道終末処理施設、紙パルプ製造業、塩化ビニル製造施設などの排水基準は、1リットル中10ピコグラムとしている。大気の環境基準は、従来の大気環境指針値の0・8ピコグラムから0・6ピコグラムに改めた。

●全国の産廃施設、休廃業が増加●

 1年間(2000年)に全国の産業廃棄物焼却施設5886カ所のうち、3分の1にあたる2046施設が、休・廃止(1393施設が廃止、653施設が休止)していたことが、厚生省の調査でわかった。また、全国都道府県のうち32都道府県の687の施設が、法律で義務付けられた排ガス中のダイオキシン類濃度の測定を実施していないこともわかった。また、濃度が現行基準値の1立方メートル当たり80ナノグラムを超過した施設は、産廃焼却場で埼玉県、群馬県など、9県の19施設、一般廃棄物焼却場では、北海道、三重、高知、山梨、愛知県の5施設、測定義務違反は104施設にのぼり、厚生省は、各都道府県などに立ち入り検査や改善命令など必要な措置をとって厳格に対処するよう指示した。測定義務違反が特に目立ったのは、愛知県71カ所、奈良県62カ所、埼玉29カ所だった。

 2002年12月以降は施設規模に応じて1〜10ナノ・グラム以下に強化される。このことから、規制に合わせて施設を改造するには多額の費用がかかることもあり、今後さらに休・廃止する施設は増えると推測されている。

 また、環境庁が発表した国内の廃棄物焼却施設などから99年に排出されたダイオキシン類の量によると、コプラナーPCBも含めて2620〜2820グラムで、98年より約2割、97年から6割以上減少していたことが分かった。
 排出量の約9割は廃棄物焼却施設から出ており、排出規制の強化に伴って焼却施設が改善あるいは休廃止されたために減少したとみられる。
 環境庁の調査では、全国のゴミ焼却施設の17%にあたる約4600施設が99年1月以降、休・廃止していることが分かっている。
 施設の減少によりゴミ焼却処分能力の低下が全国的に懸念されており、埋め立て処分量の増大やゴミの不法投棄につながる可能性も高まっている。
 2002年までに97年レベルから約9割減らす政府目標があるが、焼却施設の改善など、一層のゴミ減量化対策が必要になっている。

●不法投棄対策、笛吹けど踊らず●

 不法投棄の産廃対策で厚生省が、改正廃棄物処理法で産業廃棄物の不法投棄の原状回復に取り組む自治体を対象に1998年度限りで実施した国庫補助(予算20億円)について、補助申請した県が6県で予算も約6割しか使われなかったことがわかった。
 申請をしたのは、秋田県能代市、福島県いわき市、栃木県都賀町、新潟県栄町、愛知県三好町、渥美町、岐阜県美濃市、美濃加茂市の6県の8件だけで、不法投棄された産廃処理に苦しむ自治体は多いものの、補助事業は対策費総額の3分の2が自己負担になるため、自治体の財政難から敬遠したケースが目立った。

●不法投棄や野焼きの取り締まり強化●

 悪質、広域化する産業廃棄物の不法投棄事件などに対応していくため警察庁は、全国の警察が連携し処理業者だけでなく排出した業者にまでさかのぼって摘発する広域捜査体制の整備を柱にした「環境犯罪対策推進計画」を策定し、各都道府県警に取り締まりを指示した。特に、不法投棄やダイオキシンなどを発生させる恐れのある野焼きを「環境破壊を引き起こす悪質な環境犯罪」と位置付け、取り締まり強化を徹底する。同庁によると、1998年中に摘発された不法投棄など産業廃棄物事件は342件で、このうち複数の都道府県にまたがる広域事件は101件(前年比25件増)にのぼった。また、焼却炉を使わず廃棄物を屋外で燃やす「野焼き」がらみの事件は35件あった。

●関係省庁のダイオキシン対策●

 そうした中で厚生省は、各都道府県にすべてのゴミの最終処分場から出る放流水や地下水の測定データ、ゴミ焼却施設の排ガス濃度などの公表を指示する通知を出した。
 これまで測定データの公開は、都道府県の権限として個々の判断に委ねられていたが、今後は測定データすべてが公開の対象になることになった。また排出基準値をオーバーしている施設名と測定値、改善状況も公表する。

 加えてゴミ焼却場の集中化を規制するため、設置に「許可基準」を決めて「周辺大気中のダイオキシン濃度が環境庁の大気環境指針を超えるものや拝ガス中のダイオキシン濃度が大気汚染防止法や条例の規制値を超えるもの」は「一般ゴミや産廃の焼却場新設を許可しない」と定め、都道府県に通知した。今後は立地予定地の周辺400〜500メートルの大気中のダイオキシン濃度が1立方メートルあたり0・8ピコグラムを上回っている地域や、施設規模に応じて1立方メートルあたり0・1〜5ナノグラムと定められている拝ガス中のダイオキシン濃度を超える施設は、立地も操業もできない。

 また、環境庁と通産省は、ダイオキシンを「特定化学物質管理促進法」の対象物質とすることも決めた。企業、事業所から排出されるダイオキシンの量を把握し、データを一般に公表もする。
 国内の年間ダイオキシン総排出量は5キロ余りと推計されおり、その八割は一般ゴミの焼却から発生、一割は産業廃棄物の焼却から発生し、その他は各企業の生産工程や自動車の排ガスなどから発生すると言われている。同法は、環境汚染物質の排出・移動登録制度(PRTR)について定めたもので、この対象物質となることで、一定規模以上の事業所は、土壌、排水へも含め、ダイオキシンの排出データを所管する省庁に届け出ることが義務付けられた。
 農薬使用などによるダイオキシン汚染の防止対策が求められている農水省は、具体的な施策はない。

厚生省公表:ごみ焼却施設排ガス中のダイオキシン類濃度測定結果一覧

●PRTR制度●

 PRTRとは、一般に、事業者の報告などに基づき行政が化学物質の排出量又は廃棄物としての移動量のデータを収集し、収集したデータを目録などの形に整理し、これを広く公表するという仕組み。
 国際的に見ると、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で採択された「アジェンダ21」の中で化学物質の環境リスクの低減のための手法としてPRTRの導入が推奨された。また、1996年にはOECD(経済協力開発機構)が加盟各国に対しその導入に向けて取り組むことを勧告している。現在、米国、オランダなどの国々で、環境保全を所管する行政機関が中心となってそれぞれ特徴のあるPRTR制度が実施され、新しい化学物質管理の手法として特に注目されている。

 このPRTR法案は政府案の一部を修正、成立した。

 政府案では「有害性が判明している化学物質のうち200〜300物質を国が指定し、事業者は、通産省など業界を所管する省庁に報告」「環境庁などが業種別、地域別にまとめて公表する」「個別事業所のデータについては事業所の所管官庁に請求できる」「企業秘密として非公開にするかどうかは事業所の所管官庁が決め、非公開となった場合は分類名で知らせる」などとなっていた。
 これに対しては「国は数万にものぼる報告をチェック、指導できない。届け出先は都道府県にすべきだ」「環境庁の権限が弱い」と批判があった。このため民主党が衆院に、社民党が参院に対決法案を提案すると共に、公明党が与党に修正案を提示。「内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)も対象に」「都道府県を届け出先に」などと要求していた。
 自民党が「国が報告を受けるという前提は変えられない」と難色を示したため、「事業者が直接、国に報告する」としていたのを「道府県を経由させて国に上げる」「10年後の見直し規定を7年に短縮する」などと修正し、自治体固有の事務ではなく、地方分権法案に定められた法定受託事務(国の機関委任事務に相当)扱いとし、事業者が都道府県に一義的に報告、それを国に上げる形となった。

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