吉野川/上下開閉式の可動堰建設計画の行方

吉野川可動堰建設計画の是非を問う住民投票で、民意は「ノー」の判断をくだしたものの、徳島市議会は「吉野川可動堰計画の白紙撤回を求める意見書」を賛成少数で否決。

 住民投票で反対が圧倒的多数を占めた吉野川可動堰(ぜき)計画だが、徳島市議会(定数40)は、「吉野川可動堰計画の白紙撤回を求める意見書」を3月22日午前の本会議で、賛成16、反対22(欠席1)の賛成少数で否決した。

 意見書は、住民投票で反対票が9割を超えた投票結果や、投票結果を受けて小池正勝市長が計画反対を表明したことなどを踏まえ、計画反対会派の市民ネットワークと共産党の議員が、建設省や徳島県に計画中止を求める内容で提案。

 しかし、昨年の6月定例会で同計画の賛否を問う住民投票条例案を提案した公明党市議団が「一地域の投票結果で白紙撤回を求めるのはおかしい」などとして反対に回ったため、賛成が過半数に達しなかった。

 市議会は計画に対し、改選前の1997(平成9)年9月定例会で「可動堰化推進を求める意見書」を可決している。 

 一方、建設省は3月24日、新年度予算で吉野川可動堰計画での予算を4億円枠確保することを決めた。主に地域住民からの提案を含めた代替案の検討などの経費にあてる。
「可動堰が最適」としながらも、「可動堰計画を前提とした予算の使い方は、住民の納得を得られないし、現段階での吉野川河川改修費名目での予算確保は無理」と判断した模様だ。

吉野川可動堰建設計画の是非を問う住民投票
 全国初の国の大型公共事業を対象にした吉野川第十堰可動堰の賛否を問う住民投票は1月23日、徳島市で実施された。

 住民投票が実施された際、投票率が50%を下回れば開票されず、住民投票そのものが成立しないという「ハードル」が設けられたが、投票率は50%を超えた。

 国内で初めて「住民投票」が行なわれたのは1996年8月の新潟県巻町での原発立地の是非を巡って。「住民投票」でのこれまでの平均投票率は79%と、いずれも高い関心を集めているが、今回10例目になる徳島市で実施された住民投票では、投票率50%を巡って「投票で賛否を」との呼びかけ<対>「投票のボイコットを」との呼びかけ合戦が繰り広げられたことから、投票率が注目された。
 投票率は54.99%となり開票の結果、計画に賛成する団体などが投票への棄権を呼びかけていたことから、反対票が圧倒的多数の9割以上を占め、投票者総数11万3996のうち10万2759が、可動堰建設に「ノー」の意思表示をした。これは有権者総数約20万9000人(男性約9万8000人、女性11万1000人)のうち約5割にあたる。建設賛成は9367だった。

 この結果を受けて、これまで「推進」の立場を取っていた建設省出身の小池正勝市長は、「市民の意思を尊重して徳島市としても建設にはノーの判断をする」ことを表明した。

 この「住民投票」の結果には法的拘束力はないとはいえ、住民投票行動には、直接民主主義とは?間接(議会制)民主主義とは?などを私たちに問いかける大きなキッカケになった。またそれと共に、批判が高まっている公共事業の進め方に一石を投じるのも確実になった。

 政府は、「治水は国の責務であり、住民の生命、安全にかかわることを住民投票で決めることは適当でない」との従来の立場を改めて表明。「徳島市だけでなく2市6町にかかわる広範囲の問題でもある」として事業続行の意義を強調した。

直接民主主義、議会制民主主義、住民投票、国民投票などに関して「ご意見」のある方は、BBSフォーラムにテーマ設定してありますので書き込み発言をどうぞ。

これまで
 徳島県・吉野川の第十堰(ぜき)を壊し、上下開閉式可動堰をつくる計画の是非を問う住民投票の賛否が最大の争点となった徳島市議選(定数40)は、1999年2月の臨時市議会で住民投票条例案に反対した現職4人が落選、住民投票実現を掲げた市民グループが擁立した新人5人のうち3人が当選、可動堰化反対を訴える共産党も5議席を獲得し、住民投票賛成派が大きく票を伸ばした。住民投票を求める市民の意思が選挙結果に表れた形になり、議席数は、住民投票賛成派22人、反対派16人、態度保留2人で賛成派が過半数を獲得した。
 その後、徳島市議会は6月22日、吉野川第十堰可動堰化計画の是非を問う住民投票条例案を賛成22、反対16の賛成多数で可決。
 条例案をめぐっては、投票実現を目指す市民ネットワーク、共産党、新政会の3会派グループと公明党市議団が、それぞれ条例案を提出していたが、両条例案の上程ではいずれも反対多数になり、住民投票条例制定そのものが不可能になるため、条件付きで公明案への一本化で合意した。
 それぞれの条例案では、投票の実施時期をめぐり「別の条例で定める」とする公明案と「6カ月以内」とする3会派案とで大きく食い違っていたが、最終的に「賛成議員の協議を6カ月後に始める」「投票時期の決定は、賛成議員の過半数で決定、結果を総意とする」などの確認書を交わしたうえで3会派側の条例案を撤回、公明案に賛成することで合意し、住民投票が実施された。

●吉野川の可動堰建設計画●

 約250年前に築かれた吉野川の第十堰が洪水時に危険として、建設省が約1000億円をかけ全長約720メートルのコンクリート堰を造る計画。建設省は、事業審議委員会が1998年7月に計画を妥当とする結論を出したのを受けて同年8月、1999年度予算に環境アセスメント費約4億円も概算要求した。しかし、計画そのものに異論を唱えてきた市民らは「住民の意見が反映されていない」と反発していた。

●事業審議委員会●

 事業審議委員会というのは、建設省が長良川河口堰事業で強い批判を浴びた反省から、吉野川を含む全国14カ所を対象に、地元首長や学者で構成する第三者機関「ダム等事業審議委員会」(ダム審)を設け、事業の妥当性を審議するためにできた。
 しかし、この審議会に限らずどの省庁でもいえる事だが、審議会というのは、「あらかじめ第三者で議論をし、検討し尽くした」というアリバイ作りのための機関という、計画を進めるための便宜上のものという性格が強いのが実情だ。
 ご他聞にもれず、吉野川のダム審も昨年7月に「事業は妥当」とする結論を出し、建設省もこれを受けて事業を進めていく方針だった。着工時期は決まっていなかったが、住民側は「議論が尽くされていない」などと反発を強めていた。

●建設省の動き●

 同省は「可動堰が最有力案」との主張を変えていないが、住民参加を掲げた新河川法が施行されていながらも、住民の意見を聞かずに反発を受けたまま可動堰の建設事業を強行するのは不利、また、住民投票で建設計画が拒否されるのも、川辺川ダム(熊本県)など反対運動が続く他のダム計画にも影響が大で、今後何かと不都合と判断。徳島市議会での住民投票条例案の採決結果にかかわらず、「河川整備計画」をつくる際に、アセスメント(環境影響評価)などに3〜5年程度の時間をかけることを明示したうえで、住民の意見も聴き取って打開策を探り、計画の代替案を議論することも否定しないとしていた。 そして、事業審議委員会の結論だけにこだわることなく「吉野川方式」と位置づけて、河川整備計画に意見を述べる委員会を新たに設置して試験的に、住民の理解を得ながら事業を進めていくことにしたい意向を示している。

 しかし、 この新設される委員会も事業審議委員会同様、計画を推進させるための便宜上のものに過ぎないとの批判が住民側から出ていることから、住民参加の意義や対話のルールづくりなどを話し合う『懇談会』の設立を目指し、ここから打開策を講じたい意向だが、「先に建設推進ありき」の姿勢を崩さない建設省と、流域住民との真の対話は、現在のところ望めそうにないのが実情だ。

●住民投票に至るまで●

 市民団体「第十堰住民投票の会」が1998年11月から住民投票条例の制定への署名活動を始め、1カ月間に有権者20万8194人の約49%、10万1535人分の有効署名を集めた。直接請求に必要な法定数は有権者の50分の1だが、その20倍以上にのぼった。

 そして、計画の是非を問う住民投票条例案について審議する臨時徳島市議会が2月2日から7日間の日程で始まり、8日の本会議は、条例案を賛成少数で否決した。

 本会議では、5日に条例案を否決した特別委の委員長報告の後、市議が条例案に賛成、反対の立場から討論。採決の結果は、反対22、賛成16、退席1だった。

 同市議会(定数40)は1997年9月、可動堰促進の意見書を賛成多数で可決。住民投票に否定的な市議が多数を占める。しかし、4月の統一地方選である市議選を控えていることもあり、市議の多くが署名数の重みから、態度を明確にしていなかった。 小池市長は住民投票が必要ないとする理由について、「市議会で可動堰促進の意見書が可決されるなど、議会制民主主義の中で推進の意思は形成されている。水害の危険から住民の生命、財産を守る事業は、1地区の住民投票で決めるべきではない」などと述べていた。

 この結果を受けて、直接請求した市民団体は4月の統一地方選での市議選で住民投票に賛成する候補を支援すると共に独自候補も擁立して、改選後に議員提案で条例制定をめざすと共に市長の解職運動も視野に入れていた。
 そして、吉野川の第十堰(ぜき)を壊し、上下開閉式可動堰をつくる計画の是非を問う住民投票の賛否が最大の争点となった4月の徳島市議選(定数40)は、2月の臨時市議会で住民投票条例案に反対した現職4人が落選、住民投票実現を掲げた市民グループが擁立した新人5人のうち3人が当選、可動堰化反対を訴える共産党も5議席を獲得し、住民投票賛成派が大きく票を伸ばした。住民投票を求める市民の意思が選挙結果に表れた形になり、議席数は、住民投票賛成派22人、反対派16人、態度保留2人で賛成派が過半数を獲得、議員提案による住民投票が実現した。

※地元徳島市の詳細な動向は【関連記事/徳島新聞へのリンク】をご覧ください。

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