解 説

●深い捕鯨国VS反捕鯨国の溝●

 IWC(国際捕鯨委員会)の年次総会は毎年、捕鯨・反捕鯨の激しい対立から一向に妥協点を見いだせないまま終わるのが習慣化している。そんな情況のなか、2004年開催の第56回IWC総会もまた、同様の結果となった。

 日本が長年要求を続けている日本沿岸でのミンククジラなどの捕獲枠設定の否決は16年以上も連続だ。拘束力を伴なう重要決議は、投票権を持つ国の4分の3の賛成が必要だが、毎年、4分の3の票を得られないのが現状となっている。

 日本が提案した北海道や宮城、千葉、和歌山各県などの沿岸捕鯨のため、年100頭のミンククジラと150頭のニタリクジラの捕獲枠を認めるよう要請する内容沿岸商業捕鯨の再開は、あっさり否決された。ミンククジラは賛成24か国、反対28か国、棄権1か国、ニタリクジラは賛成22か国、反対29か国、棄権2か国と、どちらも再開に必要な4分の3の賛成票には、はるかに及ばなかった。

 日本が早期策定を目指す改訂管理制度は、反捕鯨国との隔たりが埋まらず実現不能の状態で、商業捕鯨再開は夢のまた夢のような状況だ。捕獲枠を確保しての捕鯨再開は、特に日本近海で伝統的クジラ漁を営む和歌山、宮城などの悲願だが、地域産業に欠かせないクジラ漁という日本側の主張は、捕鯨国VS反捕鯨国の構図の中では、まったく理解は得られていない。沿岸小型捕鯨提案は却下され続けている。

 しかし、日本の態度も褒められたものではない。自国の商業捕鯨に理解を求めながらも、2002年に山口県下関市で開催されたIWC総会では、アラスカのイヌイットらによる先住民捕鯨について強硬に反対姿勢を貫いたのは日本だった。捕鯨が命の糧で、それがなければ生きていけない先住民捕鯨を否定するというエゴ丸出しの日本の対応は、非難の的にもなった。

 2003年6月開催の第55回IWC総会では、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスなどの反捕鯨国19カ国が、日本などの捕鯨国が目指す商業捕鯨の再開を強く牽制するため、IWCのなかに鯨の保全を進めるための委員会を設置し、そのための基金を新たに設立することなどを求める共同提案を提出。これが、賛成25、反対20で採択された。これに不快感を示す日本は、委員会設置に必要な資金の拠出などを見合わせることを表明。それと同時に対抗措置として、IWCそのものに拠出予定している年間約2000万円の分担金も見直す構えをのぞかせた。しかし、反捕鯨ムードのうねりは絶好調で、動揺することもなく、捕鯨国の圧力を抑え込むパワーは年々、高まるばかりである。

 さらに、日本が南極海と北太平洋で行なっている「調査捕鯨」の自粛を求める声も強まる一方で、米、英、豪、ニュージーランドなどの反捕鯨国は「日本の調査捕鯨で捕獲されたクジラの7割が苦しみながら死んだ。殺さずに調査する方法もあるはずだ」と批判の嵐を浴びせ続けている。

 南極海での日本の調査捕鯨の停止を求める決議案は既に55回IWC総会で採択されているが、反捕鯨国が提出した南太平洋と南大西洋に新たな鯨の禁漁区を設ける案は、賛成が規定の4分の3以上に達せず、今回も否決された。

 98年秋からの調査では、南極海で389頭、北太平洋で100頭のミンククジラを捕獲し、2000年からはこれに「マッコウクジラ」と「ニタリクジラ」も対象に加えた調査捕鯨を日本は実施しているが、反発が強く、中止要請が圧倒的多数だ。
 調査捕鯨の中止勧告について日本は、「国際捕鯨取締条約で調査捕鯨は権利として認められている」として無視、調査捕鯨を続けている。そして、今回の採決についても日本側は「決議には法的拘束力がない」として頑固に継続の意思を表明している。しかし、反捕鯨国が主張する「殺さずに調査する方法もあるはず」との声は止みそうにない。

 また近年は、オマケのように日本バッシングが続き、日本が沿岸で行なっているイシイルカ漁の資源管理を徹底するよう求められたかと思うと、「日本で売られている鯨肉の中には、マッコウクジラやイワシクジラなど捕獲が禁止されている鯨種が含まれているばかりか、高級鯨肉として売られている肉が、実は馬肉のケースもあり、日本の鯨肉流通は無法状態」との調査結果も国際捕鯨委員会で発表されてしまっている。

 そして、第55回IWC総会では、日本のブリ漁の定置網などに鯨がかかる「混獲の問題」までがやり玉にあげられ、混獲も捕鯨と見なしている反捕鯨国は「混獲でとれた鯨を日本は食用に回し、商売に使っている」と批判、違反行為には制裁を科すべきだとして新たな混獲非難決議案もちらつかせていたが、今回は、提案国側が取り下げることを表明した。
 これは、日本やノルウェーなどが混獲について「漁網の破損など被害の方が大きく、本来意図したものでない」と反発を強め、「漁業全体にかかわる案件はIWC討議の対象外だ」と主張したためで、反捕鯨国側は戦略を練り直すために討論を先送りした。

 捕鯨に関しての形勢は圧倒的に不利で、反捕鯨国からの反発と非難の声は強まる一方で、捕鯨国同士の協調的な動きへの揺さぶりは止みそうにもない2004年現在も、優勢なのは常に反捕鯨国だ。(05/3・11改稿)

●これまでのIWC総会では、南太平洋地域のミナミマグロについても、日本が99年6月1日から調査漁獲を始めたことに対してオーストラリアとニュージーランドの両政府が「資源の枯渇が心配されている」として猛反発。「限られた資源を守ろうとする国際的な取り組みを無視するものだ」と表明すると共に、日本漁船の両国の港への立ち寄り拒否宣言をし、マグロ漁をめぐっての日本たたきも起こった。日本、オーストラリア、ニュージーランドはミナミマグロ保存委員会をつくり、毎年の漁獲割当量を話し合ってきたが、「ミナミマグロの数は、資源保護の観点からも回復している」とする日本と、「まだまだ回復しておらず、保護の必要がある」とするオーストラリアやニュージーランドとの間で、意見は対立したままだ。
 日本は、98年から合意がないまま約1400トンの漁獲を「調査漁獲」の名目で始め、99年も6月から8月末までの期間で約2000トンの調査漁獲をすることを表明したため、両国が猛反発。両国は「ミナミマグロの日本の調査漁獲は国連海洋法条約に違反する」として、 国際海洋法裁判所に中止を求める訴えを起こし、99年8月に調査漁獲の即時中止の暫定命令(仮処分)が下された。
 しかし、日本はこの仮処分に対し、「同裁判所には管轄権がない」と主張。ワシントンに臨時設置された国連海洋法条約の仲裁裁判所が2000年8月4日、日本の主張を全面的に認める決定を下したことから、日本側は、先の国際海洋法裁判所の即時中止を無効にすることに成功している。
 ここのところ日本は、クジラの調査捕鯨を否定されるばかりか、マグロの調査漁獲までも否定されたかと思うと、ブリ漁の定置網などに鯨がかかる「混獲の問題」までがやり玉にあげられ、冷たくてしょっぱい塩水を浴びせられ続けている。

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