曲がり角にたつ「中山間地域等直接支払い制度」

 2005年度で実施期間が終わる急傾斜地など条件の悪い農地を耕す生産者に補助金を支給する「中山間地域等直接支払い制度」を、実施期間以降も継続すべきかどうかについて、財務省が廃止や大幅縮小を検討する方針を打ち出したことから議論が持ち上がっている。

 中山間地が多い地方の自治体の間には、制度が「耕作放棄の発生防止」や「集落機能の活性化に役立っている」などとして、継続を求める声が強いが、政治の世界では「農業切り捨て型」に舵をきる小泉政権のもとで、すべての農家へのばらまき型助成を見直し、「規模拡大を選択する農業経営者」に支援を集中する方針が決められていることもあり、この条件不利地への所得補償そのものが「ばらまき農政だ」とする見方も強まってきた。
 そうした背景もあり、財務省は「農用地の維持・保全は自律的な農業生産活動によって行なわれる姿が基本」として、このほど見直す方針を決めた。

 地方自治体の多くが主張するように、確かに、中山間地の農業が、環境保全に果たす役割は小さくない。しかし一方では、高齢化にはさらに拍車がかかり、集落そのものの体力は低下し、中山間地に意欲ある一握りの担い手がいれば地域全体の農業生産や農地が守られるという状況でもないのが実情で、制度を継続したとしても前途は暗いのが現実だ。
 地域を守るための補助金交付はこらからも必要だが、これまでのように農水省を筆頭にした縄張り意識で予算をぶんどる方法は時代にそぐわなくなっている。

 農業が持つ多面的機能ばかりを声だかに叫ぶのではなく、これを機に、農政の枠を外し、環境行政や国土保全行政、あるいは教育行政などとも広くリンクし合いながら、地域を守るための施策を真剣に練り直す必要がありそうだ。(04・9/10)

中山間地域等直接支払い制度:耕作放棄地の増大に歯止めをかけ、景観形成や国土保全など農業が持つ多面的機能を維持することを目的に2000年度に導入された直接所得補償の制度。
区画が小さく効率の悪い棚田などを耕作する農家・生産法人が対象になった。
農業生産を5年以上続けることが条件で、傾斜の度合いや作物の種類に応じて平地の生産コストを上回る分の8割をめどに最高で10アール当たり2万1000円が支給されてきた。
ちなみに2003年度の対象農地は全耕地面積の14%に当たる約65万ヘクタール強で支給総額は約546億円だった。

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ユニクロ、農産物販売から完全に撤退。

 「チェーン展開し、国内産の高品質農産物を扱う」として各マスコミを使って広報活動に躍起になったユニクロの野菜や果物販売が、約1年半で暗礁に乗り上げ、ファーストリテイリングは3月22日、農産物販売から撤退することを表明した。全額出資子会社で野菜や果物などを販売する「エフアール・フーズ」は6月に解散する。

 「生産と販売を直結したユニクロのビジネスモデルを応用」「青果物のマーケティングに新しい息吹を吹き込み、日本の農業を活性化させる一因になる」などと、新聞やビジネス雑誌が大々的にぶちあげたが、大風呂敷を広げたわりには実績が上がらなかったようだ。

 ユニクロが、永田農業研究所や緑健研究所などと業務提携し、高品質の農産物を流通させる構想をぶちあげたのは2002年1月だった。
 売上高が減少した時期に打ち出したユニクロの経営多角化の一環としての農産物販売事業に対しては、各種マスコミが興味を示し、見通しの甘い見込み情報がたれ流された。しかし、肝心の生産者や消費者の関心は低く、実際には、生産者の確保もままならない状況での出発になっていった。会員制宅配の客単価も思ったようには上がらず、初年度8カ月間の売上高は、当初見込みの約半分の6億円にも満たないなど、目算が崩れ続けた。そして、業績が低迷したまま店舗など営業の大半は4月末で終えることとなった。

 「農作物の販売は、ビジネスとして日本で一番遅れており、チャンスは大きい」と語っていた柳井正社長は「工業製品のような計画生産ができないなど、われわれの能力で事業化は不可能だった。当面はアパレル関連事業に専念したい」と完全撤退の弁を述べた。(04・3/22)

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お米の卸売価格、上昇から下落へ、流通在庫ダブつき気味。

 不作の影響で2003年産米の卸売価格や小売価格が例年に比較すると2〜3割高になっているが、2月中旬頃から自主流通米の入札や卸間での取り引きで、高値傾向も落ち着きを見せはじめ、最近では下落傾向になってきた。
 自主流通米の入札では、唯一上がり続けていた魚沼産コシヒカリも含め、全ての銘柄の落札価格が値下がり気味になり、全銘柄の平均価格は2ヶ月連続の下落になっている。

 これは、不作により手当を急いだ卸や小売が、在庫を抱え込み過ぎたのが一因で、流通在庫が例年に比べて2倍以上も多い80万トン超えの状態になっているからだ。
 貸倉庫まで借りて在庫を積み上げ、高値を呼び込もうとしたた卸や中卸の一部は、これ以上、米を抱え込み切れず、原価割れしなければ放出してもいい、と売りを急ぐところも出てきそうだ。

 小売価格の上昇で販売も低調なことから、在庫はさらにだぶつき、3月以降は下落傾向に拍車がかかり、今はまだ値下がりしていない小売価格も、今後は徐々に下がっていきそうだ。(04・3/7)

●2月末日現在の2003年産水稲うるち玄米の検査数量は、約352万3000トンで対前年同期比82・2%。 品質は、1等比率が73・4%で、不作のわりには平均的だ。

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死亡牛検査で初めてBSE陽性反応。

 北海道標茶町の牧場でけがをして殺処分になった7歳の雌のホルスタイ乳牛が、北海道十勝家畜保健衛生所の「死亡牛検査」で3月5日、BSE(牛海綿状脳症)の陽性反応を示した問題で、茨城県つくば市の動物衛生研究所で2次検査した結果、農水省は、BSE感染していたことを確認した。
 BSE感染牛は国内11頭目だが「死亡牛検査」からBSEが見つかったのは初めて。

 国内BSE発生後の2001年10月18日から2004年1月末までに検査を受けた死亡牛は4万9436頭で、これまで陽性の牛はなかった。死亡牛については、2003年度から「全頭検査」が行なわれている。

 この牛は、牧場内を走っていてすべって転び、股関節を脱臼したが、転ぶまでは自立不能などBSE特有の神経症状は示していなかったという。
 北海道は5日から、この牧場に対し、飼育している牛計160頭の移動自粛を要請している。
(04・3/6)

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