農業がもたらす環境汚染、急がれる農薬制限への対応。
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硝酸態窒素による汚染 -

 ゴミ焼却場から放出されるダイオキシンによる農産物汚染が物議をかもしているが、農業現場そのものが、農薬や化学肥料などの多量使用により環境汚染を深刻化させている面もクロズアップされてきた。

 最も顕著な汚染は、硝酸態窒素による地下水汚染だと言われ、その対策の必要性が急務になっている。

 私たちはこれまで、豊富な清水を思う存分に使ってきたが、1980年代からじわじわと硝酸態窒素による汚染が広がっている。

 硝酸態窒素とは、硝酸イオンのように酸化窒素の形で存在する窒素のことをいい、窒素肥料などが酸化して作られる。1945年、アメリカで飲料水中の硝酸塩がメトヘモグロビン血症の原因になる、という報告が出されたが、当時、日本ではそれに注目する者は皆無に近かった。血液中に硝酸塩が入ると、ヘモグロビンがメトヘモグロビンに変化、酸素と炭酸ガスの交換ができなくなる。これが、メトヘモグロビン血症だ。
 1960年代に入って、アメリカ各地の地下水などの上水道源が硝酸塩(水中ではイオン化する)に汚染されていることが判明。アメリカ政府は、飲料水中の 硝酸態窒素量を、1リットル当たり10ミリグラム 以下とする水質基準を決定した。日本でも、水道水の水質基準はアメリカと同じに定められたが、1970年代までは窒素汚染は少なく、問題は表面化していなかった。日本でこの問題が顕在化してきたのは、1980年代に入ってからだ。

 硝酸態窒素は、活性炭 、煮沸、沈殿ろ過などでは取り除けない厄介な物質である。

 日本各地で進んでいる硝酸態窒素汚染は、地下水にも及び、その原因として「農業」が筆頭にあげられる。いま「環境保全型農業」を語るまえに、農業−環境汚染の元凶をしっかりと見つめる必要もある。

 例えば茶畑。

 茶畑の土壌は、粗粒状で水はけが良く、空気が入りやすい。そのため肥料は流出しやすく、いきおい多量の施肥が必要になる。また土壌中に酸素があるので、肥料に多いアンモニアイオンが酸化されて、亜硝酸、硝酸になる。 こうして、茶畑地下水の硝酸態窒素汚染が発生する。そして、「水田などでは、泥の中が酸素のない還元状態なので、アンモニアイオンの酸化は起こりません。茶畑があっても周囲に水田があれば、硝酸態窒素汚染が防げるのです」ともいわれているが、畜産から出た糞尿をそのまま水田に投入するところもあるので、一概には言えない。こうした肥料は勿論、茶畑だけに使用されているのではなく、ミ カン畑や果実などの温室栽培などでも 、多量の施肥が行なわれている。

 地下水の流れは表流水と違って非常に遅いことから、今までに使われた肥料の影響は、これから本格的に出てくるという。地下水を守り、非常用の飲料水を確保するためにも、肥料の過剰な使用を避ける努力が必要だ。

農業の多面的機能は両刃の剣?

 農業への理解を求める際に引き合いに出される「農業の多面的機能」つまり「農業生産活動が行なわれることにより生ずる食料・農産物の供給以外の機能で、治山・治水など国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承、アメニティ機能等」の公益的機能の価値。また、その数字には表しにくい機能や魅力をあえて金額に換算するのが最近の常套手段にもなっているが、それによると「全国270万ヘクタールの水田や220万ヘクタールの畑などの地表、地下を含めた貯水構造などを筆頭に、公益的機能としての施設の建設コストに代替して算定すると、多面的機能の評価額は全国で年間6〜7兆円弱(ちなみに林野庁の試算によると森林の多面的機能の評価額は39兆円とか)」と言い、そして「1日平均14ミリ程度が地下に浸透して一部は地下数百メートルの深層地下水に達し、地表、地下を含めた水田や畑の貯水構造は、洪水防止だけでなく、飲料水の供給や無秩序な汲み上げによる地盤沈下も防ぎ、その便益の大きさは測り難いところがある」とする。
 この評価もまた一面的な見方で、見方を変えれば「同時にその地下浸透や貯水構造そのものが、農薬や肥料の過剰使用による地下水汚染の危険性を直接有してもいる」ということにもなる。

 勿論、土壌浸食・土砂崩壊の軽減から大気浄化、保健休養機能まで多岐にわたっている農業の保護は大切なことだが、過度に「いい面」だけを強調するあまりに、その「弊害」に気付かない、あるいは気付いても、気付かないふりをする傾向になりかねない要素も持っている。

 いい面もあれば悪い面もあるという「両刃の剣」が農業ということも、そろそろ認識する必要がありそうだ。

 また、農業の多面的機能を、さらに深く入り込んだ解釈で考察し、農の空間に潜在するあらゆる可能性を、農業という一面的な見方ではなく、あらゆる角度から模索する時代を迎えている。

臭化メチル

 オゾン層の破壊物質を規制するモントリオール議定書締約国会議は、すでに全廃された特定フロンを含めたすべてのオゾン層破壊物質に全廃時期を設けている。

 アメリカ合衆国、イスラエルに次いで日本が世界第3位の生産量を有する農薬として使われている臭化メチルについての生産も、先進国が2004年末、発展途上国が2014年末に全廃することで時期合意がまとまっている。

 日本国内の農業現場での使用は、特に生姜(しょうが)産地が土壌消毒や燻蒸に用いることが多く、古くから臭化メチルを慣習として使用してきた生姜産地として知られる高知県窪川町の生姜栽培農家では、「これを取り上げられると生姜栽培そのものが困難になる」と、戸惑いが隠せない。しかしながらこの日の到来を予測して「一日も早い慣習から脱却」を目指し、新たな土づくりや栽培方法の模索を既に始めている農家もある。

 一方、高知県と並んで臭化メチルの使用量の多い宮崎県は、ハウスなど施設園芸に関してはマルチを張って「太陽熱消毒」に切り替える方向で農家へのPRを始めた。しかし、一般的に「消毒効果が低い」と思われているため、徹底にはかなりの時間と実験が必要のようだ。

 臭化メチルは、環境問題のみならず人体への影響としても発ガン性の高い物質であるため、一日も早い生産中止と使用自粛が望まれるところでもあるが、生産の全廃時期は設けられているのもの、今のところ規制導入は先送りされたままの状態だ。


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